発注の担当者が代わると、なぜ部品の品質が揺れるのか|加工先との取り決めを引き継ぐために残しておくこと
部品そのものは何も変わっていないのに、発注のご担当者が代わったとたんに品質や納期が揺れることがあります。加工先を変えたわけでもなく、図面も同じ。それでも起きます。
結論から言うと、原因は「図面に書かれていない取り決め」が、前の担当者の頭の中にしか無かったことです。仕上げの程度、納期の相談のしかた、不具合が出たときの連絡先。こうした積み重ねが引き継がれないまま人だけが代わると、加工先は推定で埋めるしかなくなります。
この記事では、担当者が代わるときに何が失われるのか、何を書き残しておけばよいのか、そして引き継いだ側が最初にやるとよいことを整理します。神奈川県横浜市都筑区で精密機械加工を行う加工メーカーとして、受注する側から見えている景色をお伝えします。

目次
担当者が代わると、何が失われるのか
失われるのは図面ではありません。図面はファイルに残ります。消えるのは、その周りにあった取り決めです。
| 失われるもの | 加工先から見た困りごと |
|---|---|
| 図面に書かれていない仕上げの程度 | バリ取りや面取りをどこまでやるか。前と同じにしたつもりが「前と違う」と言われる |
| どこを厳しく見ているか | 図面上は同じ公差でも、実際に効く寸法は決まっている。それが分からなくなる |
| 納期の実際の余裕 | 「○日まで」が本当の締め切りなのか、社内の余裕を含んだ日付なのか |
| 不具合が出たときの連絡先と進め方 | 誰に連絡すれば判断が出るのかが分からず、止まる |
| 過去に一度もめた点 | 同じことを繰り返す |
| 材料の支給・手配の取り決め | 前回は支給だったのか手配だったのかが分からない |
| 検査成績表の要否と様式 | 不要なものを作る、あるいは必要なものが抜ける |
どれも図面には書かれていません。だから引き継ぎ書にも載りにくい。ここが問題の根っこです。
加工先から見ると、担当者交代はこう見えている
連絡の内容が急に短くなる
前の方が毎回添えてくださっていた「今回は組み付け相手が変わるので、この寸法だけ厳しく見てください」といったひと言が、ぱたりと無くなります。悪気があるわけではなく、そういう申し送りがあったことを知らないだけです。
こちらからの確認が増える
分からないので聞きます。ところが引き継いだ方も分からないため、社内で調べていただくことになり、そのぶん着手が遅れます。納期が延びる原因の多くはここです。
「前はこうだった」が通じなくなる
こちらが「前回はこの仕上げでお納めしました」とお伝えしても、判断の基準をお持ちでないため、良いとも悪いとも言えない状態になります。結果、初回品の確認に時間がかかります。
引き継ぎのときに書き残しておきたいこと
部品ごとに1枚、次の項目を埋めた紙があるだけで、引き継ぎはかなり楽になります。すべてを埋める必要はありません。空欄が残っていても、「ここは分からない」と分かるだけで価値があります。
| 項目 | 書いておく内容の例 |
|---|---|
| 部品名と図番、最新の版 | どの版が生きているか。古い図面が社内に残っていないか |
| 発注先と、そこに決めた理由 | 「精度が出るから」「近くて現物を持ち込めるから」など |
| 図面に書いていない取り決め | バリ取りの程度、面取りの大きさ、洗浄の有無、梱包の仕方 |
| 本当に効く寸法 | 「この穴位置だけは外せない」など、組み付けで効く箇所 |
| 材料の支給・手配のどちらか | 支給なら、誰がどこから買っているか |
| 検査成績表の要否と様式 | 毎回必要か、初回だけか |
| 標準の納期と、急ぐときの最短 | 過去の実績で構わない |
| 過去のトラブルと、その決着 | 「一度この寸法で入らず、図面を改訂した」など |
| 先方の窓口の氏名と連絡先 | 会社の代表番号だけでなく、話の通じる人 |
材料の支給・手配については材料は支給すべきか、任せるべきかで、図面やデータの渡し方については図面はどの形式で渡せばよいかで扱っています。
引き継いだ側が、最初にやるとよいこと
1. 加工先に「担当が代わりました」と伝える
当たり前のようでいて、これが抜けることがよくあります。メールの差出人が変わっただけで、加工先は「担当が代わったらしい」と察するしかありません。ひと言いただけるだけで、こちらから前任者との取り決めをお伝えできます。
2. 「前はどうしていましたか」と加工先に聞いてしまう
社内で分からないことは、加工先が覚えていることがあります。仕上げの程度、梱包の仕方、納期の実績。聞いていただければお答えします。聞くのは格好の悪いことではありません。推定で進めて後から食い違うほうが、お互いに損です。
3. 次の1回だけ、現物を見て確認する
引き継いだ最初の1回は、納品された現物をご自身の目で見ていただくことをおすすめします。前の担当者が当たり前に見ていた点が、そこで分かります。気になる箇所があれば、その場で「ここはこうしてほしい」と決められます。
4. 決めたことを、その場で図面か文書に落とす
せっかく決めても、また頭の中だけに残すと同じことが繰り返されます。図面に注記を足す、検査成績表の項目に加える、メールで残す。形は何でも構いません。次の人が読める場所にあることが大事です。

加工先を選び直すなら、引き継ぎのタイミングが向いている
担当者が代わるときは、発注先を見直す機会でもあります。前任者との関係で続いていた取引を、あらためて評価し直せる数少ない場面だからです。
とはいえ、引き継いだ直後にいきなり全部を移すのはおすすめしません。取り決めが整理できていない状態で加工先まで変えると、変化の原因が分からなくなります。まずは上の表を埋めて、何が決まっていて何が決まっていないかを見えるようにしてから、必要なら移す。この順番のほうが安全です。
新しい加工先の見極め方は新しい加工先選びで失敗しないためにに、一社だけに頼るリスクについては部品供給を止めないためににまとめています。
引き継ぎの抜けは、少し遅れて表面化する
担当者が代わった直後は、たいてい何も起きません。前任者が発注済みのぶんが流れているからです。問題が出るのは、その先です。
次のロットを発注するとき
発注書を書く段になって、数量や納期の根拠が分からないことに気づきます。前回と同じにすればよいのですが、その「前回」がどこにあるか分からない。ここで最初のつまずきが来ます。
図面が改訂されたとき
設計変更が入ると、変更点を加工先に正確に伝える必要があります。どこがどう変わったのかを説明できないと、加工先は図面を一から読み直すことになり、見積もりも段取りも最初からやり直しになります。
急ぎの案件が入ったとき
いちばん困るのがこれです。「最短で何日か」を知っているのは前任者だけだったという状況で、急ぎの相談が来ます。無理のある納期を約束してしまうか、逆に余裕を見すぎて機会を逃すか、どちらかになりがちです。
不具合が出たとき
過去に同じ不具合が出ていて、そのとき決めた対処があったとしても、それを知らなければ一から調べ直しになります。加工先としても、以前の経緯をご存じない方に説明するところから始めることになります。
つまり、引き継ぎの抜けは「平常時」には見えません。変化があったときに初めて出てきます。だからこそ、平常時のうちに書き残しておく価値があります。
加工先側でも担当が代わることがあります
これは当社のような加工側の話でもあります。従業員8名の会社ですので、大きな組織のような引き継ぎの仕組みはありません。そのぶん、図面と段取りを記録として残し、数値で確認できる形にしておくことを大事にしています。
お客様の検査基準をもとに検査成績表を作成しているのも、納品物の品質を示すためだけではありません。同じ部品を次に作るときの基準として、記録が残るからです。人の記憶ではなく数値で残っていれば、誰が担当しても同じ判断ができます。
前の加工先が廃業されたときの治具やゲージの扱いについては、廃業した加工先の治具・検査ゲージはどうなる?で扱っています。
部品の移管先として選ばれる5つの理由
担当者が代わっても同じものが出てくるかどうかは、加工先が基準を数値と記録で持っているかにかかっています。株式会社関東精密がお客様から部品の移管先として選んでいただいている理由を、5つに整理しました。
理由1:三次元測定機による測定と検査成績表
ハンディプローブ式三次元測定機と画像寸法測定機 IM-8000(いずれもキーエンス製)で、μm(1000分の1mm)単位の測定を行います。お客様の検査基準をもとに検査成績表を作成し、図面に添付して納品することも可能です。詳しくは品質管理のページをご覧ください。
理由2:図面1枚・1個からの試作
図面1枚・1個からお受けします。「まず1個だけ作って、様子を見てから本格的に移管したい」という段階的な進め方に対応できます。数量は1000点以上まで対応可能です。
理由3:設計・治具製作から加工までの一貫対応
創業時から検査治具やゲージを製作してきた経験があります。部品一つ一つの精度を高く仕上げ、組立時の積算誤差(誤差の積み重なり)を少なく抑える加工を得意としています。加工に必要な治具から自社で作れます。
理由4:同時5軸加工による設備力と、約100社の提携ネットワーク
同時5軸マシニングセンター マザック VARIAXIS C-600をはじめ、5軸・4軸・3軸マシニングセンター、NC旋盤、平面研削盤、ワイヤーカット放電加工機を備えています。対応寸法は角物が最小10mmから最大X1000×Y500×Z500mm、丸物がφ400まで、重量20kgまで。材質はアルミ、ステンレス、各種鋼材、チタン、インコネル、超硬、樹脂に対応します。自社で完結しない工程は、治具研削・熱処理・メッキ・板金・大物加工など約100社の提携先とともに一貫してお引き受けします。
理由5:横浜・神奈川の立地による小回り
神奈川県横浜市都筑区に工場があります。横浜市・川崎市・相模原市から東京都近郊のお客様を中心にお取引をいただいており、現物の受け渡しや急ぎの打ち合わせに直接うかがえる距離です。
よくあるご質問とまとめ
担当者の交代について、購買や生産技術のご担当者からよくいただくご質問をまとめました。
Q. 引き継ぎ書に何を書けばよいか分かりません
A. 図面に書かれていないことだけで十分です。図面はファイルに残りますが、「バリ取りはここまで」「この寸法だけは外せない」といった取り決めは残りません。それを1部品につき数行でも書き残せば、次の方はかなり助かります。
Q. 前任者がすでに退職していて、聞ける人がいません
A. 加工先にお尋ねください。継続してお作りしている部品であれば、こちらに記録が残っていることがあります。当社の場合、過去の図面と加工の段取りは保管しています。
Q. 担当が代わったことを、加工先に伝える必要はありますか
A. ぜひお伝えください。ご連絡いただければ、前任の方との取り決めをこちらからお伝えできます。何も言われないと、こちらは変化に気づいたときに初めて察することになります。
Q. 引き継ぎの直後に、値段を見直してもよいものでしょうか
A. ご相談いただいて構いません。ただし、まず何が決まっているかを整理されることをおすすめします。仕様が曖昧なまま価格だけを動かすと、どこかで品質の話に戻ってきます。
Q. 図面はあるのに「前と違うものが来た」と言われました
A. 図面に書かれていない仕上げの部分で差が出ている可能性が高いです。前の品が一つでも残っていれば、それをお預けいただくのが最も早い解決です。現物があれば、数値になりにくい部分も共有できます。
Q. 引き継いだ部品が多すぎて、全部は整理できません
A. すべてやる必要はありません。金額の大きいもの、止まると困るもの、過去にもめたもの。この3つに当てはまる部品から手をつければ十分です。
Q. 検査成績表が必要かどうかも分かりません
A. 過去の納品物に添付されていたかどうかで判断できます。分からなければ加工先にお尋ねください。当社では、ご要望に応じて検査成績表を作成し、図面に添付して納品しています。
Q. 現物を見に行きたいのですが、対応してもらえますか
A. 承ります。神奈川県横浜市都筑区に工場があります。横浜市・川崎市・相模原市から東京都近郊のお客様であれば、こちらからうかがうこともできます。
まとめ——図面に書いていないことを、書ける場所に移す
担当者の交代でものづくりが揺れるのは、その方の能力の問題ではありません。引き継げない形で情報が置かれていたことが原因です。
やることは単純です。図面に書かれていない取り決めを、次の人が読める場所に移す。図面の注記でも、検査成績表の項目でも、部品ごとの1枚の紙でも構いません。形式は問いません。
そして、引き継いだ直後の1回だけは、加工先に「前はどうしていましたか」と聞いてしまうことです。こちらは覚えている範囲でお答えします。聞いていただいたほうが、お互いに手戻りが減ります。
株式会社関東精密は、継続してお作りしている部品について、図面と加工の段取りを保管しています。ご担当が代わられた際は、お気軽にお申し付けください。分かる範囲で、前任の方との取り決めをお伝えします。まずは可否のご相談だけでも構いません。
企業名: 株式会社関東精密
住所: 神奈川県横浜市都筑区池辺町4826-2
電話: 045-534-5427
公式サイト: (https://kanto-seimitsu.jp/)












