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難加工試作で“設計者視点”が効く場面と、効かせ方

治具
開発、設計
樹脂金型、モールド金型、プレス金型
2025.10.15

◆試作一発勝負。期限は動かせない。CAD上の解析は通るのに、現物が言うことを聞かない――

「剛性が足りずビビる」「熱が逃げず寸法が戻る」「段取り替えごとに基準が迷子になる」。難加工の試作でよくある“地味な失敗”の多くは、加工現場の視点よりも前に、設計の視点で避けられます。本稿では、【設計者が先にやっておくと後工程が劇的に楽になる“効かせどころ”】を、工程設計・治具・測定・材料・公差の5領域で体系化します。

 

◆難加工の難しさは、形状の複雑さよりも基準の維持とエネルギー(切削力・熱・振動)の制御にあります。

特に以下の組合せはリスクが跳ね上がる典型例です。

複合角度×薄肉:固定の甘さ→微小変形→直角度・平行度の崩壊。

長尺×深穴:工具の撓み・びびり→面粗度悪化→寸法の“戻り”。

難削材(SUS630/Hastelloy/チタン)×微小R:切削熱の蓄積→反り→仕上げで追い込めない。

工程跨ぎ(切削→放電→研削)×厳公差:工程間の基準受け渡しミス→測定値の不整合。

設計段階でのわずかな気配り(掴み代や捨て基準、面取り量、測定基準の定義など)が、再加工1回/治具追加1台/立ち会い1日を丸ごと消してくれます。

 

◆ 位相設計:同一データムで“どこまで終わらせるか”を決める

原則:段取り替えは誤差発生の主要因。1回のクランプで機能上関係が強い面を可能な限り完結させる。

実装:CADに“ベクトル色分けレイヤ”を作り、Zベクトル仕上げ面を最大化。割出台・角度テーブルを前提に回転対称基準で複数面を同時に仕上げる設計に。

例:ボス・溝・止まり穴が密集するL字ブラケットは、割出治具+サイド押さえで同一基準から3面仕上げ→直角度と位置度が一気に安定。

 

◆ 予ひずみ設計:粗取りで“わざと反らせる”

背景:残留応力は削るほど出る。仕上げで整合しようとしても、取り代が残っていないと負ける。

手順:粗加工→時効(自然時効/人工時効)→半仕上げ→時効→仕上げ。Al6061薄肉は仕上げ代0.15~0.25mmを残し、最終に均等取り。

治具:反り方向を見込んだ逆曲げクランプやテンションバーで、仕上げ時の形状戻りを抑える。

 

◆ 治具一体化:ワーク=治具の発想で掴み代を設計に埋め込む

捨て基準ボス/タブを最初からモデリング。最後にワイヤー放電で切り離す前提。

真空チャック+ピン/Vブロックのハイブリッドで薄板・薄肉の座りを作る。真空だけに頼らない。

 

◆拘束を図面で明文化(3点支持・2点位置決め・1点クランプ)

自由度6の拘束順序を合わせると再現性が跳ね上がる。

 

◆ 工法ミックス:最短ではなく“歪みの少ない順”で並べる

粗形状→微小コーナ→基準仕上げ→穴品質→仕上げ計測の定石に、材料と形状の特性で分岐を挿入。

分岐例:

Hastelloy:切削熱を避け、放電→研削で機能面を確定。

アルミ薄肉:マシニング高速加工→応力解放→研削で平面度を作る。

深スリット:ワイヤー放電でスリット先行→その基準で周辺加工を追従。

 

◆ 測定戦略:測定基準と加工基準を一致させる

治具設計:検査治具も3-2-1で拘束。測定子の当たりは球面/円錐を使い再現性を確保。

測定の二重化:三次元測定機(CMM)+ピンゲージ/リングゲージで相互検証。ゲージR&Rで人・装置・方法の寄与を把握。

温度:検査は【20±1℃】を基準。ラインで測る場合は温度補正テーブルを準備。

 

◆ 切削力・振動への具体策(びびり対策の実務)

工具:突出を短く、コア径太め、コーティングは材質に合わせる(TiAlN/DLCなど)。

パス:一定切削量(AE/AE一定)を維持し、断続切削を避ける。

主軸回転のスイートスポットを実測で探索(スピンドルマップ)。共振域を避ける回転数を治具に貼付。

 

◆ 設計者視点での考え方
・ 形状・公差設計

Rゼロ指定の抑制:R0.2~R0.5の許容が加工性と寿命を大きく改善。どうしてもRゼロなら放電+研削の組み合わせを前提に。

面取りの統一:C0.2/C0.3の面取り統一は測定再現性に直結。図面の備考に必ず明記。

直角度・平面度:機能面は研削で1回だけ確定し、以後はその面からの寸法に統一。

・ 材料・熱・応力

アルミ(6061/7075):薄肉は仕上げ代を残し、人工時効で応力を逃してから最終仕上げ。放熱設計では接触面のRa1.6以下・平行度0.01以下を優先。

ステンレス(SUS304/630):切削熱で戻る。切込み浅め+高送り/クーラント制御で熱を持たせない。仕上げは微小取り代で“一発”。

チタン:工具逃げを広く、乾式やMQLを検討。工具摩耗が早いため測定頻度を上げる。

・ 治具・段取り

抜差式位置決めピン:脱着摩耗を抑え、±0.005の再現性を守る。ピンの当たりは球面で。

非対称配置:左右非対称のピン配置で誤組を物理的に防止。色分けと刻印でダブルポカヨケ。

段取り時間:目標は60秒以内。セルフロックのクイル/偏心カムで片手操作を実現。

・ 測定・品質保証

測定順序:粗取り後→半仕上げ後→仕上げ後で同じ基準から測る。測定のための基準を別に作らない。

ゲージR&R:立上げ前に実施し、**%R&R<10%**を目標。治具・人・方法の寄与を潰す。

トレーサビリティ:基準ブロック/ピンの校正履歴を台帳化。治具IDと使用回数を記録。

・ ドキュメント

意思決定ログ:基準・工程・治具・測定の“理由”を1枚に。設計変更や外注切替のときに効く。

IF表(インタフェース):ネジ規格、工具侵入角、クリアランス、ケーブル・配管の逃げを先行定義。

短い自己診断(Yes/No)

測定基準は加工基準と一致しているか?

1回のクランプで機能面をどこまで終わらせるか、決めているか?

捨て基準・タブを図面に入れているか?

面取り量は統一されているか?

温度条件(20±1℃)を前提にしているか?

 

◆今後すべきこと

いま進行中の難加工試作に対して、【「基準・保持・熱・測定」】の4点だけで良いので、30分の設計レビューミーティングを設定してください。具体的には:

CADをベクトルごとに色分けし、同一データムで完結できる面を洗い出す。

捨て基準ボス/タブを追加モデリングし、切り離し方法(放電/スリット)をメモする。

工程順を歪みの少ない順に並べ替え、時効・応力解放のタイミングを挿入する。

検査治具の3-2-1拘束図を描き、測定順序と温度条件を仕様化する。

設計段階でのこの“ひと手間”が、試作現場のびびり・反り・基準迷子をまとめて断ち切ります。もし、図面のどこかに“作れるか怪しいR”“工具が入らない溝”“測れない位置度”が残っているなら、それは設計の宿題です。量産を見据えた試作ほど、設計者の視点が一番効きます。いまからでも遅くありません。図面の端に、捨て基準と面取り量を書き足すところから、はじめると良いかも知れません。

 

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