部品が出ない、図面がない。それでも金型は再生できる
古い射出成形ラインを維持している現場では、入子(インサート)やスライド、エジェクタ、ホットランナーの部品が『廃盤】となり、メーカーもサポート終了。図面も履歴も残っておらず、『成形を止めるか』、『金型を作り替えるか』という二択に迫られることが増えています。
結論から言うと、『樹脂金型はリバースエンジニアリングで再生可能』です。本記事では、図面のない樹脂金型コンポーネントを「測る→再設計→切削/研削/放電→仕上げ→トライ」まで一気通貫で復元するための実務ポイントを体系化します。既存の一般論と重複しないよう、【樹脂金型特有の論点(収縮・離型・磨き・換装性・成形条件トレース)】に絞って解説します。
目次
第1章:金型ならではの“機能基準”を読み解く
樹脂金型の再生では、単純な形状コピーでは不十分です。まずは『成形品の機能』と『金型面の役割』から逆算します。
・キャビ/コアのデータム:パーティング面(PL)を一次基準、ピン基準やキー基準を二次・三次に設定
・アンダーカットとスライド連動:カム角・ストローク・タイミングを現物の摩耗痕から推定
・ベント(ガス抜き):成形品外観欠陥(焼け、ウェルド)と金型ベント溝の関係をトレース
・入子交換性:将来の再修理を想定し、入子の位置度・止まりの規格化を優先
※重要:パーティング面の平面度と直角度が、全ての寸法連鎖の起点。PLを正しく再構築できなければ、どれだけ精密加工しても合いません。
第2章:測定とデータ化—鏡面・微細面の“測り分け”
金型は鏡面や微細テクスチャを含むため、3Dスキャン単独では正確に拾えない箇所があります。以下の『組み合わせ戦略』が有効です。
・白色光/レーザースキャン:大局形状の取得(キャビティ外形、冷却孔位置)
・接触式CMM:基準ピン・ガイドポスト・PL周りの幾何公差(位置度・同軸度)
・金型面の微細溝・テクスチャ:干渉計/輪郭形状測定機でR端・エッジを抽出
・可視化:仕上げ方向の研磨目(#番手)を撮像し、離型方向と整合
※取得データは『キャビ/コアを別体系』でモデリングし、最後にPLで合わせ込むと、誤差伝播を抑えられます。
第3章:収縮・変形を“設計に戻す”
樹脂は成形時に収縮・反りが発生します。図面がない場合は、『現物製品』から逆算して金型寸法を再構成します。
1. 製品サンプリング:実機で良品とNG品を入手し、3DスキャンとCMMで統計値を取得
2. 材料の推定:樹脂グレード(ABS/PP/PC+GF等)と成形条件(温度・圧力・保圧)をヒアリング
3. 目標寸法の設定:実測平均に対して逆収縮係数を適用し、キャビ/コアの設計寸法を決定
4. 反り補正:平面度/うねりの傾向を見て、金型側に“撓ませ”を持たせる(バイアス設計)
※ポイント:完全コピーではなく“狙い寸法の再設計”。試作トライで係数を微調整する前提で進めます。
第4章:加工戦略—入子・PL・微細部の作り方
4-1. 材料と熱処理
・入子/コア:NAK材、SUS420J2、SKD61など。鏡面性が必要なら**SUS系+焼入れ→サブゼロ→ラッピング
・ベース:プリハードン(P20相当)で加工性を確保
・耐摩耗域:窒化/イオン窒化、TiN/CrNコートで離型・耐焼けを両立
4-2. 加工の組み立て
荒→中→仕上の変形管理:入子単体で完結させ、PL仕上げは最後に“対”で合わせる
・電極設計(放電):微細R・コーナーは放電で追い込み、電極摩耗量を事前補正
・高精度穴:ガイド・位置決めはリーマ仕上げ、ピンとのはめあい等級を明記
4-3. 仕上げ・磨き
・成形品外観に効く面は#800→#1200→バフ、磨き代は均一に確保
・テクスチャ面は方向性を統一。離型方向に逆らう研磨は不具合の種
第5章:冷却・ベント・ゲートの“再設計”で歩留まりを稼ぐ
再生の機会は、【歩留まり改善の好機】でもあります。
・冷却配管:埋設深さ・ピッチを見直し、キャビ面から1〜1.5D(孔径D)に最適化
・ベント:焼け/ショートショットの履歴があれば、PL端0.02〜0.04mmでガス抜き増設
・ゲート/ランナー:ひけ・ウェルド位置に合わせ、サブマリン→ピン等の変更を検討
・ホットランナー代替:純正入手不可なら、コールド化+予熱で代替運用も選択肢
※変更は成形条件との二人三脚。現場の温度・圧力・時間プロファイルを必ず記録化します。
第6章:トライ&チューニング—“良品を作るまで”が仕事
再生金型は、初回トライで100点は稀。以下のチューニング手順を事前に合意します。
1.初回条件:現行条件をベースに、ゲート・冷却の変更点のみ反映
2. 現品測定:重要寸法の統計(n≥10)を取得し、収縮係数の再計算
3. ピンポイント改修:ベント追加、入子の局部追い込み(放電/手加工)、ゲート径調整
4. 第2回トライ:歩留まり・サイクル・外観のOK/NG基準を明文化
※契約上も、トライ2〜3回を含めた“成果保証型”が現場満足につながります。
第7章:交換互換性—将来の“止めない”仕組みを作る
今回の再生で終わりにせず、次の故障に備える設計へ。
・入子規格化:位置度、基準キー、締結ねじを社内規格に
・検査記録:PL平面度、ピン位置度、ゲート寸法の検査成績書を保管
・部品番付与:入子・スライド・ピン類に社内部品番号を刻印し、発注・在庫を容易に
第8章:知財・倫理の観点(簡潔に)
金型のリバースエンジニアリングでは、製品意匠・特許・契約に留意が必要。依頼主が当該金型の適法な使用者であること、製品設計の権利関係に抵触しないことを事前確認し、必要に応じて守秘・目的限定の契約を結びます。
まとめ:樹脂金型は“読み解き×再設計×現場力”で甦る
図面がなく、部品が手に入らなくても、パーティング・入子・冷却・ベント・ゲートを軸に、リバースエンジニアリングで論理的に再構築すれば、金型は甦ります。重要なのは、
・ 成形品から収縮を逆算して“狙い寸法”を設計
・ PLを一次基準に据えた幾何管理
・ 切削・放電・研削・磨きの工程設計
・ トライ&チューニングを前提にした成果保証
【「成形は止められない」】現場にとって、金型再生は投資対効果の高い打ち手です。困ったときは、【リバースエンジニアリング】の専門チームに早めに相談してください。
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