設計の“勘所”が歩留まりを変える——樹脂金型設計×取り纏め力の実務(図面レス再生にも効く原則)
目次
- 1 はじめに:設計は図を描く仕事ではなく、“基準と矛盾をなくす仕事”
- 2 取り纏め力=“基準の一貫性”を作ること
- 3 PL設計の勘所:勾配・逃げ・段差の“罪”を見逃さない
- 4 ゲート/ランナー設計:樹脂の“道”を制す
- 5 冷却設計:キャビ面からの“距離”が命
- 6 離型・エジェクション:設計ミスは外観不良で返ってくる
- 7 変形・収縮の先回り:バイアス設計の標準化
- 8 バラツキ設計(トレランス・スタックアップ)
- 9 3Dと図面:どちらが“正”かを決める
- 10 変更管理:設計意図を失わせない
- 11 ケーススタディ:図面レス入子の“設計力”で量産復帰
- 12 まとめ:設計者は“現場を動かす編集者”であれ
- 13 ◆ ご相談ください(設計×取り纏め)◆
はじめに:設計は図を描く仕事ではなく、“基準と矛盾をなくす仕事”
樹脂金型の設計は、3Dモデルを作る行為以上に、【基準を定義し、工程と整合させ、矛盾を潰す】仕事です。とくに図面がない既存金型の再生や入子の作り直しでは、現場情報が断片的で、誰かが【取り纏め(統合管理)】の役割を引き受けない限り、歩留まりは上がりません。
この記事では、既存ブログと重複しないよう、【樹脂金型“設計そのもの”の勘所】を、PL基準/ゲート・ベント/冷却/離型/変形対策/バラツキ設計/図面と3Dの関係/変更管理の観点から整理します。図面レス案件にも直結する普遍原則としてご活用ください。
取り纏め力=“基準の一貫性”を作ること
設計の最初のアウトプットは3Dモデルではありません。【一次〜三次基準の設計仕様書(A3一枚)】です。
・PL(パーティング)を一次基準とし、キャビ・コアの基準面/基準ピンを定義
・入子交換規格(位置度、キー、締結、クリアランス)を先に決める
・検査基準(CTQ寸法、測定治具、温度条件)を設計段階で確定
※ 設計→加工→検査→トライの各工程が【同じ基準図】で動けるように、取り纏めが配布・改訂管理を担います。
PL設計の勘所:勾配・逃げ・段差の“罪”を見逃さない
PLは見た目の合わせではなく、【成形・磨き・離型のすべての矛盾が集まる面】です。
・勾配(ドラフト)の整合:PL跨ぎでドラフト方向が反転していないか
・逃げ(リリーフ)の連続性:磨き代を確保しつつ、エッジだれを抑える逃げ量
・段差の管理:入子境界での段差許容(例:±0.01〜0.02)を明示
・ベント構造の先読み:PL端0.02〜0.04のベント溝を設計段階から確保
→ 「PLは最後に現場で合わせる」は【悪手】。設計段階で“合わせやすいPL”を作るのが設計者の責務です。
ゲート/ランナー設計:樹脂の“道”を制す
・樹脂グレード×ゲート型式:ABS/PC/PA+GFで推奨型式と位置の原則を持つ
・ウェルドとヒケのトレード:外観優先面から逃がし、裏面で合流
・サブマリン→ピンの切替基準:自動化・トリミング性・外観要求で選定
・ホットランナー代替案:純正調達不可時はコールド+予熱・バルブゲート風制御で近似
※ 設計レビューでは、【樹脂の流れの“意図”】を言語化して共有するのが取り纏めの仕事です。
冷却設計:キャビ面からの“距離”が命
・孔心距離の原則:キャビ面から【1〜1.5D(孔径D)】、ピッチ3〜4D
・温度ムラの可視化:過去不良(ヒケ、反り)位置に対し優先的に増設
・オフセット曲がり孔:干渉回避のための段差・屈曲は、圧損と洗浄性を評価
・メンテ性:洗浄ポート、腐食対策、銅合金インサートの使いどころ
→ 冷却は図面で“定性的に語られがち”なので、【距離とピッチ】を数値で固定し、後戻りを防ぎます。
離型・エジェクション:設計ミスは外観不良で返ってくる
・ピン径とピッチ:座屈しない径、白化・痕の低減ピッチ
・スリーブ/リフター:アンダーカット量とカム角の整合
・エアアシスト:薄肉・深リブでの有効活用
・入子の“面当たり”:離型方向に逆らわない磨き目
※ 勘所は、【樹脂がどこに吸着し、どこが剥がれたがらないか】の想像力。設計は“離型挙動の仮説モデル”を持つべきです。
変形・収縮の先回り:バイアス設計の標準化
・逆収縮係数の適用:過去良品データがない場合は材料カタログ値+安全側バイアス
・反り補正:面の反り方向に【逆撓み】を設ける(数百μmオーダ)
・リブ・肉厚設計:tの均一化、リブ厚0.5〜0.7t、フィレットRで応力集中を回避
・CAE活用:簡易充填・冷却解析で傾向を掴む(過信しすぎない)
→ 図面レスでも、“狙い寸法を作る”のは設計。初回トライで微調整する前提で、【再現可能な設計意図】を残す。
バラツキ設計(トレランス・スタックアップ)
・CTQ寸法の選別:機能を決める寸法だけに厳しい公差を集中
・寸法連鎖の見える化**:スタックアップ表で最大/最小を確認
・仕上げ代の配分**:磨き・放電・研削でどこまで作り切るかを工程横断で合意
・面粗さの要否:外観面以外はRa緩和でコスト最適化
※ 無意味に厳しい公差は【歩留まりとコストの敵】。取り纏めが【“効く公差だけ残す”】を主導します。
3Dと図面:どちらが“正”かを決める
・3D正・2D参照か、【2D正・3D参照】かをプロジェクトで統一
・PMI(寸法・公差・粗さ)の付与:3DモデルにGD\&Tを持たせ、図面は指示の抜けを防ぐ
・暗黙仕様の可視化:磨き方向、ベント、研削禁止面など、【注記テンプレート】で標準化
変更管理:設計意図を失わせない
・ECR/ECO:理由、影響、適用ロット、承認者を記録
・版管理(Ver):入子、電極、条件票の版を同期
・トレーサビリティ:良品写真・寸法統計・条件票を紐づけて保管
→ 設計変更は“現場に効く物語”。取り纏めを【誰でも追える履歴】に翻訳します。
ケーススタディ:図面レス入子の“設計力”で量産復帰
・ 背景:外観ヒケ頻発、ウェルド目立つ。旧入子図面なし。
・ 設計の勘所:
・ PL一次基準を再定義、ゲートを外観逃げ側へ移設
・ 冷却をキャビ面1.2Dで追加、ベント0.03をPL端に新設
・ エジェクタピン位置を白化回避パターンへ再配置
・ CTQ寸法以外は公差緩和、仕上げ代を均一化
・ 実装:3D正運用、PMI付与。ECRで変更記録。
・ 結果:2回のトライで外観OK、寸法CpK>1.33、サイクル8%短縮。
まとめ:設計者は“現場を動かす編集者”であれ
樹脂金型設計の価値は、3Dの巧拙より、【基準の一貫性・矛盾の排除・変更の翻訳・歩留まりの設計】に宿ります。図面がなくても、情報が断片でも、【取り纏め力】があれば最短で量産復帰できます。
現場を止めない設計——それは、【勘所を言語化し、合意をつくり、工程を繋ぐ】こと。困ったら、設計とPMの両輪で伴走できるチームに早めに声をかけてください。
◆ ご相談ください(設計×取り纏め)◆
・樹脂金型の設計標準(PL/冷却/ベント/離型)立案
・3D正運用・PMI・テンプレート整備
・図面レス入子の再設計、トライ立会い、ECR/ECO運用
写真1枚・製品サンプルから着手可能です。期日と目標歩留まりを共有いただければ、設計から取り纏めまで一気通貫で支援します。