薄物ワークを“反らせずに”仕上げるには?平面研削における冶具と段取りの勘どころ
「削るたびに反ってしまう」「きれいに面が出ない」
そんな薄物ワークの平面研削に悩んだ経験はありませんか?
平面研削盤における薄物加工は、精度管理と段取り技術の“真価”が問われる領域です。
本記事では、板厚3mm以下のワークを対象に、反り・浮き・研削焼けを防ぐための冶具設計と加工段取りの工夫を、現場視点で整理していきます。
目次
■ なぜ「薄物」は難しいのか?──研削の基本から考える
研削加工は「砥石とワークの摩擦」によって加工熱が生じるため、以下のような要因が反りや面精度悪化に直結します:
摩擦熱によるワークの熱膨張と収縮
吸着保持中の“裏面残留応力”の解放
強いマグネットチャックによる変形吸着
とくに板厚が3mm未満になると、わずかな吸着歪み・温度変化でも数μm〜10μm単位の反りとなって表れ、再研削で追っても“蛇行ループ”になるケースが多く見られます。
■ 薄物加工における「冶具設計」の基本方針
・ポイント①:全面吸着よりも「支持点バランス」を重視
薄物のワークでは、全面吸着はかえって反りや応力集中の原因になります。
理想は以下のような“多点支持+吸着補助”構成
・中央部を軽く浮かせ、外周を支持する
・複数の支持ピン or スペーサーを配置し、反りを逃がす
・吸着力を調整できるチャック(半磁力/分割マグネット)が有効
・ ポイント②:治具とワークの熱伝導性の違いに注意
例えば、アルミワークを鋳鉄ベースに固定すると、研削熱の逃げ方に差が出て片側だけが伸び、反りの原因になります。
→ ワーク材と近い素材で冶具ベースを作る、または断熱スペーサーを活用する工夫が必要です。
■ 実践現場の段取り術:ワークの動きを制御する“見えないテクニック”
◉ クーラントの温度を一定に保つ
加工前にワークを冷却タンクに仮置きし、“温度慣らし”をしておく
加工中の砥石温度上昇を避けるため、インターバル加工(一定時間ごとに停止)を実施
◉ “裏表交互”で加工する
表→裏→再度表、と交互に少しずつ削ることで反りを相殺
一方向から一気に仕上げるのではなく、“平衡的除去”を意識する
◉ あえて「逃げ」を作る段取り
万力やブロックでがちがちに固定すると逆効果
あえて“片側だけ浮かせる”ような治具設計で、熱変形の逃げ場を与える
■ 失敗事例から学ぶ「やってはいけない段取り」
NG事例 なぜダメか 改善ポイント
全面吸着で強制固定 応力が歪んだまま固定→研削後に反り戻り 支持点分散+低吸着力に切り替え
熱いまま裏面加工 熱膨張+冷却収縮で変形 必ず冷却後に反対面を研削
高速送り+深切削 熱が逃げず焼けやすい 低速・微切削・冷却強化
■ 設計と連携すべき視点:「薄物を研削する」ことを前提に設計する
設計段階で“後工程に平面研削が必要な構成”であるならば、以下の配慮が欠かせません。
加工治具が組めるだけの余白・余肉の確保
吸着困難な素材(樹脂・チタン等)であればボルト固定用の下穴追加
測定基準面がブレないような“対称形状”を意識した設計
■ まとめ:薄物研削は「センス」でやる時代ではない。“段取りのロジック化”が再現性を生む
かつては「職人の経験とカン」で対応していた薄物ワークの研削加工ですが、量産性や品質安定が求められる今、
冶具設計・吸着設定・熱制御・工程順序まで含めた「段取り設計」が求められます。
誰がやっても再現できる、“ロジカルな薄物加工”こそがこれからの製造現場に必要な力です。