樹脂金型の“取り纏め力”が歩留まりを決める——リバースエンジニアリング×プロジェクト統合管理の実務
目次
はじめに:技術だけでは金型は動かない
図面がなく、部品も入手できない——だから【リバースエンジニアリング】で樹脂金型を再生する。ここまでは技術の話です。しかし現場で本当に歩留まりを上げ、停止時間を最短にするには、【取り纏め(統合管理)】が欠かせません。
金型は、成形・設計・加工(切削/放電/研削/磨き)・表面処理・ホットランナー・計測検査・品質保証・調達・物流など、多職能が絡む“総合格闘技”。各自が正しく仕事をしても、【順序・基準・変更管理が整っていなければ、結果は出ません。】
本稿では、樹脂金型を図面レスで再生するプロジェクトにおける【取り纏め能力】を、プロセス・役割・成果物・会議体・リスク管理の観点で体系化します。既存の一般論と重複しないよう、【金型特有の統合ポイント(PL基準、入子互換、トライ運用、成形条件のデータ化)】に絞って解説します。
第1章:取り纏めの目的は“基準の一貫性”を作ること
樹脂金型では、【パーティング面(PL)】が全寸法連鎖の起点です。取り纏めの最初の責務は、
1. PLの幾何基準(平面度・直角度・位置関係)
2. キャビ/コアの一次・二次・三次基準
3. 入子交換基準(位置度・締結・キー)
を【文書化し、全工程で同一解釈にする】こと。測定・加工・検査・トライの各工程が別の基準で動いてしまうと、良品が出ません。
第2章:RASICで混乱を断つ(役割分担表)
金型再生プロジェクトにおける推奨RASIC(Responsible/Accountable/Support/Inform/Consult)
例:
| 領域 | 成形 | 金型設計 | 切削/放電/研削/磨き | 計測検査 | 品質保証 | 取り纏め |
| 基準(PL/データム)定義 | C | R | S | S | I | A |
| リバース(測定→CAD) | C | R | S | S | I | A |
| 工程設計(荒→仕上) | I | C | R | C | I | A |
| トライ計画/条件票 | R | C | S | I | C | A |
| 変更管理(ECR/ECO) | I | R | S | I | C | A |
| 合否判定/量産移管 | R | C | S | R | A | A |
※ 実体に応じてカスタマイズ。重要なのは【“A(最終責任)”が単一】であること。
第3章:フェーズ分割とゲートレビュー(GR)
★Phase 0:着手承認
・範囲定義(対象入子/スライド/冷却/ベント/ゲート)
・リスク洗い出し(知財・素材入手・寿命)
・マイルストーンとKPI(停止時間、初回合格率、歩留まり)
★Phase 1:リバース(測定→CAD)
・3Dスキャン+CMM計画、PLの一次基準定義
・製品現物の統計計測→逆収縮設計
・GR#1:基準・目標寸法・収縮係数の合意
★Phase 2:加工・仕上
・荒→半仕上→応力解放→仕上、電極補正、磨き代管理
・冷却/ベント/ゲートの再設計(歩留まり改善含む)
・GR#2:治具/電極/加工経路、検査計画合意
★Phase 3:トライ&チューニング
・条件表(温度/圧力/保圧/時間)とサンプル数の取り決め
・良否基準(外観/寸法/サイクル)の見える化
・GR#3:量産移管判定と残課題
第4章:変更管理は“金型を守る最後の砦”
図面レス再生では、途中で多くの学びが得られ、仕様変更が発生します。そこで【ECR/ECO(変更要求/変更命令)】を簡易でも運用します。
・変更の理由(欠陥/歩留まり/コスト/寿命)
・影響範囲(入子、PL、冷却、ゲート、条件表)
・検証方法(サンプル数、計測項目、合否基準)
・履歴と最新版の【一元管理】(PDM/共有フォルダでも可)
→ 取り纏めは「口頭決定」を【必ず文書化】し、【誰がいつ何を変えたか】を残します。
第5章:会議体とコミュニケーション設計
・デイリー15分立会:加工/検査の前日差異、リスク潰し
・ウイークリー進捗会:KPIレビュー(加工進捗、検査合格率、試打歩留まり)
・トライ直前レビュー:条件表の最終確認、現場のシミュレーショントーク
・トライ事後レビュー:統計結果(n≧10)の共有と改修指示
会議は短く、【次の48時間以内のToDo】に落とし込むのがコツ。議事は取り纏めが【当日中に配布】します。
第6章:成果物テンプレート(ダウンロード想定)
1. PL/基準定義シート(A3):一次〜三次基準、測定・加工・検査の統一図
2. トライ条件票(Ver管理):温度、圧力、保圧、サイクル、段取り、異常時対応
3. 入子互換仕様書:位置度/はめあい/締結/刻印、在庫・再手配手順
4. 検査成績書テンプレ:重要寸法のCTQセット、外観判定、統計版(Xbar-R)
5. ECR/ECOフォーム:変更理由、影響範囲、承認者、適用ロット
※ これらは【“言葉のズレ”を減らすための翻訳装置】。取り纏めが配布・最新維持を担います。
第7章:ケーススタディ——入子再生×歩留まり12→92%
・ 課題:外観ヒケとウェルドが交互に発生、旧入子は図面レス。PL周りの磨きムラあり。
・ 取り纏め施策:
・ Phase1でPL一次基準を再定義、入子の位置度基準を規格化
・ 冷却配管をキャビ面1.2Dへ増設、ベント0.03mmをPL端に追加
・ トライ条件票をVer管理し、変更はECRで記録
・ 検査はCTQ寸法を統計管理(n=20)、外観は写真カタログ化
・ 結果:2回のトライで歩留まり92%、サイクル10%短縮。以後の入子交換は互換仕様により【停止半減】。
第8章:リスク&対策——“止めない”ために先回りする
・測れないリスク:鏡面/微細面→測定手段の事前計画(干渉計/輪郭)
・基準逸脱:治具・検査・加工で基準統一、監査チェックリストで現場点検
・試作トライで時間切れ:n不足を避けるため、事前にサンプル数と判定ロジックを合意
・知財/倫理:適法性確認、守秘契約、目的限定
まとめ:取り纏めが“技術を成果に変える”
樹脂金型の再生は、単なる加工や設計の積み上げではありません。【PL基準の一貫性、変更管理、会議体、テンプレート化】といった“取り纏め力”が、はじめて技術を成果に変えます。
困っている現場ほど、専門家の技術だけでなく、【統合管理の伴走者】が必要です。図面がなくても、部品が廃盤でも、【正しく取り纏めれば止めずに走れる。】
◆ ご相談ください(RE×取り纏め)◆
・金型再生プロジェクトのPM/取り纏め支援
・PL基準定義、入子互換規格、トライ計画、ECR/ECO運用
・成果物テンプレ(条件票/成績書/チェックリスト)提供
写真1枚・現物一点から評価可能。まずは課題と期日を共有ください。取り纏め設計から伴走します。