図面化される前の“アイデア段階”の相談に応えられる町工場の存在意義
目次
導入
「概念は固まっている。機能も論理も通っている。けれど、図面に落とすと“掴み代がない/基準が出せない/クランプすると反る/加工ベクトルが足りない”」。CAD画面では成立しているのに、現場におろすと前提が崩れる――そんな“アイデアから図面”の狭間で止まる案件は珍しくありません。とくに( 【±0.01mm以下】を視野に入れる試作・評価部品や、『研削×複雑形状】の混在品では、「図面化の前」に検討すべき論点が数多く埋まっています。
背景
量産の歩留まりは、設計の早い段階で決まります。基準(データム)と加工順序、保持と測定の整合、熱・応力・振動の取り扱い――これらは『図面寸法の決定と同時に』設計して初めて狙いどおりの精度・コスト・納期に着地します。ところが、社内に加工現場の感覚が十分に共有されていない場合、CAD化→公差設定→見積という“ドキュメント先行”の進め方になり、後工程での【手戻り(図面改訂/段取り追加/治具追加/再測定)】が連鎖します。特に以下の条件が重なると、手戻りは指数関数的に増加します。
・薄肉や長尺で『クランプ時に形状が変わる』(治具一体設計が必要)
・複合角度・アンダーカットがあり『加工ベクトルの切替』が多い(強い基準の維持が難しい)
・SUS630/Hastelloy/SKD系など『難削材』で熱とバリの制御が難しい
・『研削+放電+切削』など複数工法をまたぎ、工程間で基準を受け渡す必要がある
解決アプローチ
ここでは、“町工場に『アイデア段階』で相談する”ことの価値を、具体的な設計支援の手順に落として解説します。
初期レビュー:形状を「加工ベクトル」で分解
・CADモデルをXYZそれぞれの【加工方向(ベクトル)】に分解し、1ベクトルで完結できる面を最大化します。
・逃げ溝/工具の入出角/首下長さ/バックボーリングの可否を早期に確定し、【“作れないRや面”】を洗い出します。
・例:M6通し穴の裏側に『Φ11×7mm座ぐり』が必要なら、設計段階で【逆止め座ぐり刃(バックボーリング)】の挿入空間と逃げ寸法を確保。
仮治具の同時設計(ワーク=治具発想)
・捨て基準ボス/タブ/サポートリブを【意図的に設計】し、加工完了後に切り離す前提を置きます。
・真空チャック+ピンやVブロックの【ハイブリッド保持】を想定。薄板・薄肉は真空で“座り”を作り、ピンで位置決め。
・【3-2-1原則】(3点支持・2点位置決め・1点クランプ)を図面段階で表現。保持の自由度6を設計で拘束します。
工法ミックスの初期設計
・『粗形状』:マシニングで送りを最適化(ロングエンドのたわみを避ける工具選定)。
・『微小コーナ/アンダー』:ワイヤー放電でR最小化(テーパ制御・ワイヤー径選定)。
・ 『基準仕上げ』: 平面/成形研削で平面度・直角度・平行度を統一(±0.005~0.01)。
・ 『穴品質』: リーマ仕上げ+ホーニング/スーパーフィニッシュ。面粗度と真円度の両立を狙う。
・ 『検査』: 三次元測定+ピンゲージの【二重化】で、測定の再現性を担保。
熱・応力の先回り設計
・ Al6061の薄肉は【仕上げ代0.1~0.2】を残し、最終工程で【均等取り】。粗取り後の時効で応力を逃がす。
・ SUS系・Hastelloyは切削熱で反りやすいため、【放電→研削】の順で熱履歴を断ちます。
意思決定ログの標準化
・ 「なぜその基準なのか」「なぜその工程順か」を【1枚の意思決定シート】に残す。設計変更時のリカバリー速度が段違いになります。
設計者視点でのアドバイス
・【基準は“強い1面+補助2面”】で守る:最終まで生きる“王様の面”を決め、その面からの寸法表記を徹底。
・ 【Rゼロ指定の乱用を避ける】:R0.2以上を許容し、放電後の研削で機能面を整える前提に。
・ 【面取りの定義を明確に】:C0.2/C0.3の統一は測定再現性を上げ、組付け不具合を減らします。
・ 【測定基準=加工基準】:測れない精度は作れません。検査治具の拘束条件を図面にリンクさせます。
・ 【締結の実在】:座面の面粗度Ra・平面度、工具の侵入角まで“現場の物理”をモデルに落とす。
次にすべきこと
図面が固まる前に、【保持案・工程案・検査案】をセットで10~30分レビューしてみてください。アイデア段階での小さな対話が、後工程の1週間の手戻りを確実に防ぎます。もし、いまCADの中で“掴めない面・届かない工具・測れない公差”が1つでもあるなら、【仮固定モデル】(捨て基準ボス付き)を描いてみる――ここが最初の一歩です。