図面の隅にある「バリなきこと」。その一行の重みを知っていますか? 0.01ミリの突起が品質を破壊する理由と、職人が挑む「仕上げ」の美学
▼ こんな方に読んでほしい
・ 「組立時に部品が入らない」「指を切った」というクレームを受けた経験があり、バリの管理基準に悩んでいる品質保証担当者
・ 図面にはとりあえず「バリなきこと」と書いているが、具体的にどのような処理が行われているか(手作業か機械加工か)を知らない設計エンジニア
・ コストダウンのために「C面取り」を省略しようとしているが、それが逆にコストアップ(手仕上げ工数の増加)になるリスクを知りたい開発購買担当者
目次
序論:100点の加工を、0点にする魔物
最新のマシニングセンタで、1ミクロンの狂いもなく削り出された美しい部品。
しかし、その角(エッジ)に、わずか0.05mmの「金属のささくれ」が残っていたらどうなるでしょうか。
精密な嵌合(かんごう)部品であれば、そのささくれが邪魔をして、絶対に入りません。
油圧バルブであれば、使用中にそのささくれが脱落し、回路を詰まらせてシステムダウンを引き起こします。
そして何より、それを手に取った作業者やお客様が、指を切って怪我をするかもしれません。
そのささくれの名は「バリ(Burr)」。
金属加工において、避けては通れない宿命的な副産物です。
図面には、ハンコで押したように「バリなきこと」と書かれています。
しかし、この言葉ほど曖昧で、恐ろしい指示はありません。
「目に見えなければいいのか?」
「ストッキングが伝線しなければいいのか?」
「顕微鏡で見てもなくなっていなければならないのか?」
私たち株式会社関東精密は、この「バリ」を単なる不要物とは考えていません。
バリの出方を見れば、工具の切れ味、加工条件の良し悪し、そして加工者の腕前がすべて分かります。
本記事では、たかがバリ、されどバリ。モノづくりの品質を最後に決定づける「仕上げの流儀」についてお話しします。
なぜ、バリは生まれるのか? 切れ味と粘りの戦い
金属を刃物で削るということは、ミクロの視点で見れば「むしり取る」行為に似ています。
刃物が金属の端まで到達し、抜けようとする瞬間。
金属は粘り気(延性)を持っているため、スパッと切れずに、最後の一皮がめくれて残ります。これがバリの正体です。
特に、ステンレス(SUS304)や純アルミ、銅といった「粘り強い材料」ほど、盛大なバリが発生します。
また、切れ止んだ(摩耗した)工具を使っていると、無理やり押し切ることになるため、バリは大きく、硬くなります。
バリが出るということは、その部分に「無理な力」がかかった証拠です。
私たちはまず、鋭利な工具を選定し、最適な切削速度を見極めることで、「そもそもバリを出さない加工」を目指します。
バリを小さく抑えることこそが、最も低コストで確実なバリ取り対策だからです。
「手仕上げ」か「機械仕上げ」か。コストと品質の分かれ道
発生してしまったバリをどう処理するか。大きく分けて二つの方法があります。
(1) 熟練工による「手仕上げ」
ヤスリ、スクレーパー、ナイフ、砥石。
職人が一つひとつ手に取り、顕微鏡や拡大鏡を覗きながら、手作業でバリを除去します。
どんな複雑な形状でも対応できる反面、人件費(コスト)がかかり、作業者によって仕上がりにバラつきが出るリスクがあります。
「削りすぎ(面取り過多)」や「見落とし」が起こりうるのも、手作業の宿命です。
(2) マシニングセンタによる「機上バリ取り」
私たちが推奨しているのは、可能な限り機械の中で完結させる方法です。
加工プログラムの中に、「面取りカッター」や「バリ取りブラシ」の工程を組み込みます。
エンドミルが通った後の角を、正確にトレースしてC面(斜めの面)を削り出す。
これなら、1000個作っても1000個とも全く同じ仕上がりになります。
コストも安く、品質も安定します。
設計者へのお願い。「C0.1」を図面に入れてください
ここで、設計者の皆様に一つだけお願いがあります。
図面の角部に、「C面(面取り)」または「R面(丸み)」の指示を入れていただけないでしょうか。
もし、角が直角(ピン角)のままだと、私たちは「バリなきこと」を守るために、手作業で微細なバリ取りを行わなければなりません。
「C指示がないから、削りすぎてはいけない。でもバリは取らなければならない」。
このジレンマが、加工コストを押し上げます。
図面に「指示なき角はC0.2〜C0.3」という注記があるだけで、私たちは堂々と機械で面取り加工ができます。
「C面取り」は、単なるデザインではありません。
バリの発生を根本から断ち、組立時の挿入性を良くし、使用者の怪我を防ぐ、最も合理的な「機能形状」なのです。
2次バリ、3次バリ。終わらない戦い
「バリを取ったら、そこにまた新しいバリができた」
冗談のような話ですが、現場では日常茶飯事です。
面取りカッターでC面を作ると、そのC面の端に、さらに微細な「2次バリ」が発生することがあります。
特に、PEEKなどの樹脂や、純銅などの柔らかい金属では、このイタチごっこが続きます。
私たちは、これを防ぐために「ダウンカット・アップカット(刃物の進行方向)」を使い分けたり、最終仕上げに特殊な「セラミックブラシ」や「ラッピング研磨」を併用したりして、ミクロン単位のささくれまで根絶します。
医療機器や半導体装置の部品では、微細なバリの脱落(コンタミ)が致命的な事故につながります。
そのようなハイグレード部品の場合、私たちは「50倍拡大鏡での全数検査」を実施し、繊維一本の残りも許さない体制で出荷します。
クロス穴の悲劇。内側のバリはどうする?
最も厄介なのが、穴と穴が内部で交差する「クロス穴」のバリです。
外からは工具が届きません。
しかし、ここバリが残ると、油圧回路の中で剥がれ落ち、バルブを詰まらせます。
【プロの解決策:特殊ツールと電解研磨】
・ バリ取り専用ツール:
遠心力で刃が開く特殊なカッターを穴の中に挿入し、内側からバリを削り取ります。
・ サーマルデバリング(熱的バリ取り):
専用の釜の中で混合ガスを爆発させ、その衝撃波と熱で、薄いバリだけを瞬間的に焼き切ります。
・ 電解研磨・化学研磨:
薬品や電気の力で、表面をごく薄く溶かし、尖ったバリを丸めます。
図面には見えない「内部の品質」まで保証して初めて、プロの仕事と言えます。
結論:指先で触れてわかる、関東精密の「品格」
納品された部品を、ぜひ指先で撫でてみてください。
安価な加工業者の部品は、角が鋭利で、指に引っかかる感触があるかもしれません。
株式会社関東精密の部品は、すべての角が滑らかで、手に吸い付くような優しさがあるはずです。
それは、私たちが「バリ」という敵と徹底的に戦い、勝利した証です。
「バリなきこと」。
そのたった一行の指示に対して、私たちがどれだけの技術と情熱を注いでいるか。
その答えは、製品のエッジ(稜線)に刻まれています。
組立がうまくいかない。
異物混入トラブルが消えない。
そんな悩みをお持ちなら、ぜひ一度、私たちの工場へ図面をお送りください。
「美しい部品」とはどういうものか、現物でお見せいたします。












