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図面なし部品を“切削加工で”正しく再現する。リバースエンジニアリング×加工戦略の実務

開発、設計
5軸マシニング加工
リバースエンジニアリング
2025.09.23

はじめに:復元精度は“加工工程設計”で決まる

リバースエンジニアリング(以下RE)は、3DスキャンやCAD化に注目が集まりがちですが、『最終的な精度・寿命・コストは切削加工の工程設計が支配』します。とくに図面のない部品を現物から再製作する場合、データ化よりも難しいのは、

  • どの基準(データム)を再構築するか

  • どの順序で“歪み・応力・熱”を制御するか

  • どの公差を「作る」か

という、『加工の意思決定』です。本稿では、RE案件を“切削加工の視点”で成功させる実務ノウハウを体系化します。

 

第1章:データム再構築 ― 加工の起点を間違えない

1-1. 現物基準の読み解き

摩耗していても、『設計者が意図した基準面・基準穴・軸』は痕跡として残っています。スキャンメッシュと接触測定(CMM)を突き合わせ、以下を抽出します。

  • 回転体:『中心軸』の推定(真円・同軸の再生)

  • 箱モノ:『一次・二次・三次基準面』の再定義

  • 治工具:『ワーク基準』と『機械基準』の分離

1-2. データム優先度の付与

機能連鎖(どの寸法が機能を決めるか)に基づき、加工公差を配分。『測定しやすい基準より、機能起点の基準を優先』します。例:

  • 伝達軸 → 軸心(A基準)>キー溝(B)>端面(C)

  • スライド部 → ガイド面(A)>相手部品当たり面(B)>固定穴(C)

第2章:荒・中・仕上の“熱と応力”設計

2-1. 取りしろと順序

REでは現物の歪み・摩耗を補正するため、『取りしろ設計』が重要。素材取り→荒→半仕上(応力解放)→仕上の順序で、『基準を崩さず』追い込みます。

  • 荒取り:+0.5~1.5mm相当(形状・材に依存)

  • 応力解放:自然時効 or 低温応力除去焼鈍

  • 半仕上:基準を作り直し、残しろ0.1~0.3mm

  • 仕上:温度安定下で最終公差へ

2-2. 熱のマネジメント

切削熱は歪みと寸法変動の主因。以下を徹底します。

  • 『クーラントの最適化』:粘度・供給量・ノズル角度

  • 『工具突き出し最小化』:びびり源の除去

  • 『切削条件の分割』:深削り連続より、浅切込み多回で熱滞留を回避

第3章:切削加工機の使い分け(5軸/マシニング/NC旋盤)

3-1. 5軸マシニング:基準一貫と段取り削減

複雑形状や多面基準は5軸で『基準一貫』を確保。段取り回数を減らすことで、基準ずれを抑えつつコストも圧縮。

  • 同時5軸:曲面補正やスクリュー形状の再現

  • 3+2軸:多面穴ピッチ・位相の一括加工

3-2. NC旋盤:同軸度と真円度を“作る”

回転体は『一チャック内で完結』が原則。荒→中→仕上で『芯振れ補正』を逐次行い、キー溝・割り溝は『同一基準の後工程』で加工。

3-3. 複合加工:工程内での相関公差管理

ミルターニングにより、旋削→フライス→穴あけを一気通貫。位相角・ピッチ円の誤差が縮小し、『相手部品との嵌合率』が向上します。

 

第4章:工具・ホルダ・CAMの三位一体

4-1. 工具選定

  • 高硬度材:微粒超硬+コーティング(AlTiN等)

  • ステン:逃げ面熱対策(耐溶着性コート)

  • 樹脂・非鉄:高刃角・鏡面逃げ

4-2. ホルダ戦略

コレット/油圧/熱収縮を使い分け、『振れ精度3μm以下』を狙う。突き出し最短・干渉回避は5軸のシミュレーションで事前検証。

4-3. CAM要点

  • 荒取り:HSM(高速高送り)で熱と工具負荷分散

  • 仕上げ:等高線+等ピッチで表面性状安定

  • トロコイド加工:薄肉・深溝で変形抑制

第5章:公差を“再設計”する ― 現実適合の考え方

REはコピーではなく再設計。元の図面が無い以上、『“機能に効く公差のみ厳守”』が鉄則です。

  • 嵌合部:はめあい等級選定(例:H7/g6→H8/f7)

  • 位置度:組立治具の実力に合わせ最適化

  • 面粗さ:必要面以外は緩和(Ra6.3→12.5)

→ 無意味に厳しい指定は『コスト爆弾』。現物の機能要件をもとに『合理的な公差体系』を設計します。

 

第6章:検査は“加工と同じ基準”で行う

測定の失敗は、『加工基準と検査基準の不一致』から生まれます。

  • セッティング治具で加工時と同一拘束条件を再現

  • CMM測定は温調後に実施(ワーク・室温安定)

  • GD&T(幾何公差)で“機能評価”を行う(同軸度・位置度・平面度)

『合否の前に、機能を測る。』 これがRE品質の本質です。

第7章:ケーススタディ(切削加工焦点)

7-1. 搬送装置のローラー(Φ60×300、SUS)

  • 課題:偏摩耗と振れ。図面なし。

  • 解:5軸で一次基準と二次基準を同一段取り化/旋盤内でセンタ再定義

  • 結果:同軸度0.01、総振れ0.02。振動が消え寿命2倍

7-2. ポンプハウジング(鋳物、薄肉箱モノ)

  • 課題:仕上で歪み、嵌合漏れ

  • 解:荒後に応力除去→半仕上→仕上。トロコイドで熱負荷低減

  • 結果:平面度0.02/面粗さRa1.6、漏れゼロ

7-3. タレット治具ベース(SK材、焼入れ)

  • 課題:位置度バラつき

  • 解:焼入れ前加工→焼入れ→研削+仕上げミーリングで位置度追い込み

  • 結果:位置度0.01、段取り時間30%短縮

  • 第8章:費用と納期の目安(切削加工中心RE)

  • 『単品(旋削主体、簡易):2~3週間/数十万円』

  • 『多面5軸+検査成績書:3~5週間/数十万~100万円台』

  • 『複合・熱処理・表面処理込み:4~8週間/案件により』

※ 形状・材質・機能要件で大きく変動。『公差の合理化』がコスト最適化の最短路です。

 

まとめ:REを“加工の言葉”に翻訳せよ

図面のない部品を現物から再製作するREは、『加工現場の意思決定』で勝敗が決まります。データムの再構築、熱と応力の制御、機械・工具・CAMの三位一体、そして“機能に効く公差”だけを作る勇気。これらを徹底したとき、『切削加工は最強の復元手段』になります。

 

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