ニアネットシェイプを実現する【切削加工】とは?材料費と加工時間を削減する新常識
「材料の無駄が多すぎる」「加工に時間がかかり、コストを圧迫している」。製造業において、材料費と加工時間は、利益を左右する二大コストです。この課題に対する一つの答えが、「ニアネットシェイプ(Near Net Shape)」という考え方です。ニアネットシェイプとは、最終製品形状に限りなく近い形状の素材から加工を始めることで、無駄な切削加工を減らし、コストと時間を削減するアプローチです。本記事では、このニアネットシェイプを実現するための具体的な手法と、その中で5軸マシニングが果たす役割について解説します。
なぜ「削りしろ」は無駄なのか?
従来の【切削加工】では、安全マージンを考慮して、最終製品よりもかなり大きい四角形や丸棒の素材(インゴット)から、大量の切りくずを出しながら削り出すのが一般的でした。この「削りしろ」は、以下のような無駄を生み出します。
・材料費の無駄: 削り取られて切りくずとなる部分は、購入した材料費の無駄にほかなりません。特に、チタンやインコネルのような高価な材料では、このコストは甚大です。
・加工時間の無駄: 削りしろが多いほど、それを除去するための荒加工に多くの時間を費やすことになります。これは、機械の稼働コストと人件費の増加に直結します。
・工具費の無駄: 長時間の荒加工は、工具の摩耗を促進し、交換頻度を高めるため、工具費も増大します。
・環境負荷の増大: 大量の切りくずを生成することは、エネルギー消費や廃棄物の観点からも望ましくありません。
ニアネットシェイプは、この「削りしろ」を最小限に抑えることで、これらの無駄を根本から解消しようという考え方です。
ニアネットシェイプを実現する3つのアプローチ
最終製品に近い形状の素形材を準備するには、主に3つの方法があります。
1. 鍛造・鋳造品の活用
最も一般的なニアネットシェイプの手法です。金型を用いて、高温で溶かした金属を流し込んだり(鋳造)、圧力をかけて成形したり(鍛造)することで、複雑な形状の素形材を製作します。自動車のエンジン部品や航空機の構造部品などで広く用いられています。
・メリット: 量産性に優れ、一個あたりのコストを抑えられる。金属組織が緻密になり、強度が高まる(特に鍛造)。
・デメリット: 金型の製作に高い初期コストと長いリードタイムが必要。小ロット生産には不向き。
2. 異形押出材・引抜材の活用
アルミや銅などでよく用いられる手法で、特殊な形状の金型(ダイス)を通して、長尺の異形材を製造します。サッシやヒートシンクのように、断面が一定の長尺製品に適しています。
・メリット: 比較的安価に、複雑な断面形状の素材を連続的に生産できる。
・デメリット: 断面形状が一定の製品にしか適用できない。
3. 金属AM(3Dプリンタ)の活用
近年、最も注目されているニアネットシェイプ技術です。金属粉末をレーザーや電子ビームで一層ずつ溶かし固めていくことで、極めて自由な形状の素形材をダイレクトに造形します。
・メリット: 金型が不要なため、一個からでも低コスト・短納期で製作可能。内部に冷却水管を持つような、従来の工法では不可能な複雑形状も実現できる。
・デメリット: 現状では造形スピードが遅く、材料費や設備費も高価。表面粗さや内部欠陥など、品質管理に特有のノウハウが必要。
ニアネットシェイプ加工における【5軸マシニング】の重要性
これらの手法で製作された素形材は、最終的な精度や機能面を満足させるため、仕上げの【切削加工】が必要となります。ここで【5軸マシニング】が重要な役割を果たします。
鍛造品や鋳造品、AM造形品は、ニアネットシェイプとはいえ、複雑な3次元形状をしています。こうしたワークを精度良く固定し、基準面を設定して、必要な箇所だけを効率的に加工するには、一度の段取りで多方面からアプローチできる【5軸マシニング】が最適です。3軸加工機のように何度も段取り替えを行っていると、せっかく素形材で短縮したリードタイムが相殺されてしまいます。工程を集約できる5軸加工こそが、ニアネットシェイプのメリットを最大限に引き出すのです。
まとめ:次の行動へ
材料費と加工時間という、製造業の根源的なコスト課題に立ち向かう「ニアネットシェイプ」。それは、単なるコスト削減手法ではなく、環境負荷を低減し、持続可能なものづくりを実現するための新しい常識です。まずは、貴社が現在加工している製品の中で、最も材料の歩留まりが悪いもの、あるいは荒加工に時間がかかっているものを一つ選んでみてください。その製品の素形材を、鋳造や金属3Dプリンタで製作した場合、どれくらいのコストと時間の削減が見込めるでしょうか。信頼できる鋳造メーカーやAMサービスビューロー、そして【5軸マシニング】による仕上げ加工を得意とするパートナーに相談することで、コスト構造を劇的に変えるヒントが見つかるかもしれません。