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その複雑形状、本当に「削れない」ですか?5軸加工のポテンシャルを100%引き出す、私たちの“頭の中”を全公開します。

治具
開発、設計
5軸マシニング加工
2025.09.29

そのアイデア、頭の中の「加工の常識」で消してしまっていませんか?

こんにちは!株式会社関東精密のブログ担当です。いつも私たちの少しマニアックな記事にお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

さて、突然ですが、設計者の皆さん。
「この形状、機能的には最高だけど…加工屋さんに『無理』って言われるだろうなぁ」
「この滑らかな曲面、理想的だけど、どうせ削れないから、カクカクした形状で妥協しておくか…」
なんて、頭の中に浮かんだ素晴らしいアイデアを、ご自身の心の中にある“加工の常識”という名の消しゴムで、そっと消してしまった経験はありませんか?

私たちは、日々たくさんの図面を拝見する中で、そうした「設計者の葛藤」の跡を、図面の端々から感じ取ることがあります。それは、モノづくりの世界に存在する、「設計者の理想」と「製造現場の現実」との間にある、深くて大きな壁の存在を物語っています。

でも、もし、その壁が、あなたが思っているよりもずっと低く、乗り越えられるものだとしたら?
もし、5軸加工という技術の真の力を引き出す「考え方」を知れば、その消しゴムを使う必要がなくなるとしたら?

今回は、いつもの技術解説とは少し趣向を変えて、私たちがお客様から「これ、作れますか?」と、一枚の複雑な形状の図面を託された時、私たちの“頭の中”で、一体どんな思考が、どんな順番で駆け巡っているのか、そのプロセスを、包み隠さず、話し言葉で、ライブ中継のようにお届けしてみたいと思います。
これは、私たちの手の内を明かすようなものですが(笑)、この記事を読み終えた時、あなたの設計の自由度が、少しでも広がることになれば、それ以上に嬉しいことはありません。

 

 

なぜ、多くの工場は複雑形状を嫌がるのか? – ちょっと正直な舞台裏の話

まず、そもそも論として、なぜ多くの加工現場は、複雑な形状の依頼に、少し及び腰になってしまうのでしょうか。最新の5軸加工機を持っている工場でさえ、です。それは、いくつかの、非常に現実的で、切実な理由があるんです。

 

・理由その1:「ワンチャック」の魔法が使えるまでの、地道な下準備が大変すぎる問題

5軸加工のメリットとして、「ワンチャックで多面加工できるから、段取りが減って精度が出る」と、よく言われますよね。もちろん、それは事実です。でも、多くの人が見過ごしているのは、その魔法のような「ワンチャック」を実現するための、最初の「一掴み目」が、実は一番難しくて大変だ、という現実です。

考えてみてください。まるで粘土をこねたような、平行な面が一つもない、ぐにゃっとした形状の部品。あなたなら、どうやって、加工の基準となる最初の位置を、寸分の狂いなく、かつ、強力な切削力に耐えられるように、ガッチリと固定しますか?
サイコロのようにカクカクした材料から始めるならまだしも、支給された鋳造品や鍛造品がそんな形状だったら…?もう、頭を抱えてしまいますよね。この「最初の掴み方」を考案するだけで、半日、いや、一日以上かかることもザラなんです。

 

・理由その2:工具が「びって」しまう問題

複雑形状ということは、必然的に、奥まった狭い場所や、深いリブを削る、といった加工が多くなります。そうすると、どうなるか。使う工具(エンドミル)は、どんどん「細くて、長い」ものになっていきます。

そして、この「細くて長い工具」というのが、加工者にとっては悪夢のような存在なんです。なぜなら、彼らはちょっとしたことで、すぐに「びって」しまうから。
「びびり」というのは、加工中に工具がブルブルと微振動してしまう現象のことです。このびびりが発生すると、加工面はガタガタになり、寸法は出ない、最悪の場合、工具が折れてしまうことさえあります。
長いストローで水の底にある角砂糖を突こうとしても、ストローがぐにゃっと曲がってしまって、上手く力が伝わらないですよね。あれと似たようなことが、ミクロンの世界で起こっているんです。この「びびり」をどう抑え込むか、これもまた、大きな課題です。

 

・理由その3:CAMプログラミングという名の、見えない迷宮

「なんだ、いまどきCAM(キャム)っていう自動でプログラムを作ってくれるソフトがあるんだから、楽なんじゃないの?」と思われるかもしれません。
確かに、CAMは強力な武器です。しかし、それはあくまで、使い手の技量があって初めて真価を発揮する道具なんです。

複雑形状、特に同時5軸で滑らかな曲面を加工するような場合、その加工プログラムは、時に数十万行、数百万行という、とてつもない長さになります。その膨大なプログラムの中に、たった一つでも、工具の角度(姿勢)の指定ミスや、削り込み量の計算違いがあれば、どうなるか。

…はい、数千万円もする機械と、高価な材料、そして治具が、一瞬でスクラップになります。そうならないために、私たちは加工を始める前に、コンピューター上で何度も何度も、執拗なまでにシミュレーションを繰り返します。このシミュレーションと、それに伴うプログラムの修正作業もまた、膨大な時間と集中力を要する、非常に神経をすり減らす仕事なんです。

 

私たちの頭の中を実況中継! – 複雑形状図面が、製品になるまでの思考プロセス

さあ、お待たせしました。
いよいよ本題です。そんな数々の困難が待ち受ける、複雑形状の図面が、私たちの机に置かれた瞬間から、一体どんな思考のリレーが始まるのか。そのプロセスを、4つのフェーズに分けて、実況中継してみましょう。

 

 

【フェーズ1:バーチャル解剖】 – まず、機械のことは考えない。ひたすら部品と“対話”する

意外に思われるかもしれませんが、私たちは、図面を受け取って、いきなり「どの機械で加工しようか」「どんな工具を使おうか」とは考えません。
まずやることは、3D-CADの画面上で、その部品を徹底的に“解剖”し、その部品が持つ“物語”を読み解くことです。

「この面は、ツルツルである必要があるな。きっと、何かが摺動するんだろう」
「この穴の周りだけ、公差がやけに厳しい。きっと、ここに高精度なベアリングが入るんだな」
「このリブは、こんなに薄くて大丈夫かな?強度計算はされているだろうけど、削る時に変形しないだろうか」

私たちは、設計者さんが、なぜこの形状にしたのか、この部品にどんな機能的役割を託したのかを、図面に描かれた線や数字から、必死に想像します。まるで、刑事ドラマのプロファイリングのようです(笑)。
なぜ、こんなことをするか?
それは、この部品の「急所」、つまり「絶対に外してはいけない品質特性」と、「ある程度は融通が利く部分」を見極めるためです。全てを100%の力で加工するのは、時に非効率で、コストを無駄に上げてしまいます。どこに一番の力を注ぐべきか。その優先順位付けこそが、高品質と適正コストを両立させる、最初の、そして最も重要な一歩なのです。

 

【フェーズ2:ワークホールディング大作戦】 – さて、この子をどうやって掴もうか?

部品との対話が済んだら、次はいよいよ、現実的な加工方法の検討に入ります。その一番目が、先ほども述べた最難関、「どうやって掴むか(ワークホールディング)」です。
ここでは、私たちの頭の中で、いくつかの作戦が同時に検討されます。

 

・作戦A:「捨て身」作戦
これは、完成形状にはない「掴むためだけの部分(掴み代)」を、あえて材料に付けたまま加工を進める方法です。例えば、球体を加工したい場合、そのままでは掴めませんよね。なので、南北の極に「持ち手」のような出っ張りを残した状態で大部分を加工し、最後にその持ち手を切り落として仕上げる、といった具合です。この「どこを、どれくらいの大きさで残し、どのタイミングで切り落とすか」という計画が、腕の見せ所です。

 

・作戦B:「オーダーメイドの玉座」作戦
これは、その複雑形状の部品が、まるで王様のようにピッタリと収まる「専用の受け治具(ネスト治具)」を、先に作ってしまう方法です。部品の裏側の複雑な形状を、別の材料(アルミや樹脂など)で反転して削り出し、そこにカポっとはめ込む。そうすれば、上からごく軽い力で押さえるだけで、安定して固定できます。治具を作る手間はかかりますが、部品そのものに応力をかけたくない、デリケートな加工では絶大な効果を発揮します。

 

・作戦C:「二段階変身」作戦
これは、加工を進める中で、部品自体に「基準面」を創り出していく、という少し高度な考え方です。まず、掴みやすい材料の状態で、加工の第一段階(OP-1)として、部品の半分と、次の工程で掴むための精密な「基準面」や「基準穴」を一緒に作ります。そして、OP-2では、その自分で作った基準を使って、ひっくり返して固定し、残りの部分を仕上げるのです。自分で自分の足場を作っていくようなイメージですね。

どの作戦を選ぶかは、部品の形状、材質、要求精度、そして数量(コスト)を総合的に判断して決定します。

 

【フェーズ3:ツールパスという名のバレエの振り付け】 – 工具を、いかに優雅に、そして賢く踊らせるか

掴み方が決まったら、いよいよCAMを使って、工具の動き(ツールパス)を設計していきます。これは、ただ削る経路を作るだけではありません。まるで、優秀なバレエダンサーに、最高のパフォーマンスをさせるための「振り付け」を考えるような、創造的な作業です。

・工具姿勢制御という魔法: 5軸加工の真髄は、工具の「姿勢(角度)」を、常に最適にコントロールできる点にあります。例えば、滑らかな曲面を仕上げる時、私たちはボールエンドミルの「先端のど真ん中」を使いません。なぜなら、工具の中心は回転速度がゼロで、切れ味が悪いからです。そうではなく、工具を少し傾けて、一番切れ味の良い「側面(腹の部分)」が、常に加工面に接するように、滑らかに姿勢を変化させながら削っていきます。こうすることで、驚くほど美しい、磨き上げたような加工面(面品位)が生まれるのです。

・荒加工は「賢く、速く」: 大きな塊から、不要な部分をガサっと取り除く荒加工。ここでの鉄則は、「びびらせない、熱を持たせない、無理させない」です。私たちは、「トロコイド加工」に代表されるような、工具の負荷を一定に保ちながら、切り屑を効率的に排出し、高速で削り進める最新のツールパスを多用します。これにより、加工時間を短縮しつつ、部品内部に応力が溜まるのを防ぎます。

・仕上げ加工は「優しく、丁寧に」: 最後の仕上げのパスは、まさに画竜点睛。製品の価値を決定づけます。私たちは、要求される面粗さや、光が当たった時の見え方まで考慮して、パスの方向や、パスとパスの間隔(ピッチ)を、0.01mm単位で調整します。

 

【フェーズ4:バーチャルでの最終リハーサル】 – 石橋を叩いて、叩いて、叩き割るくらいのシミュレーション

これら全ての計画が完了したら、いよいよ加工開始…とはなりません。
私たちは、実際に機械を動かす前に、コンピューター上で、現実と寸分違わぬ、超高精度なバーチャル加工を行います。

・機械の動きを完全再現: 私たちが使うシミュレーションソフトは、実際の工作機械の動き、治具、工具、材料の全てを、デジタル空間に完璧に再現します。
・あらゆるリスクの洗い出し: 工具が部品の思わぬ部分に衝突しないか(干渉チェック)、もっと効率的な経路はないか、加工時間はどのくらいか、そして、完成した形状が設計通りになっているか。ありとあらゆる角度から、何度も何度もチェックを繰り返します。

この執拗なまでのバーチャルリハーサルのおかげで、私たちは、現実の加工での失敗をほぼゼロに抑え込み、最初の一回目から、完璧な製品を生み出すことができるのです。

 

よくある質問(FAQ) 

Q1. 正直なところ、5軸加工って、3軸加工に比べて、どのくらい高くなるんですか?

A1. これは、一番よく聞かれる質問ですね(笑)。率直にお答えすると、「ケースバイケースですが、トータルコストでは安くなることが多い」です。
確かに、5軸加工機の時間単価は、3軸機よりも高価です。しかし、考えてみてください。3軸機でやろうとすると、4回も5回も段取り替えが必要だった部品が、5軸機なら1回で終わるとします。その場合、「段取り替えにかかる人件費や時間、複数必要だった治具の製作費、そして、段取り替えの度に発生する不良リスク」を全て合算すると、どうでしょうか。
多くの場合、5軸加工の方が、「部品一つを、良品として手に入れるまでの総コスト」は、はるかに安くなるのです。私たちは、常にこの総コストの視点で、お客様に最適な工法を提案するようにしています。

 

Q2. 深くて狭いポケット形状があるのですが、5軸でも加工は難しいですよね?

A2. 「深リブ・狭ピッチ」は、加工の難所の一つですね。おっしゃる通り、工具の「突き出し長さ」には物理的な限界があり、長くなればなるほど「びびり」やすくなります。
ただ、5軸加工なら、ワークの方を傾けることで、3軸機では届かなかった角度から、より短く、より剛性の高い工具でアプローチできる可能性があります。また、CAMのツールパスを工夫したり、びびりを抑制する特殊な工具ホルダーを使ったりと、様々なノウハウを組み合わせることで、これまで「不可能」とされていた領域の加工に成功した例も数多くあります。ぜひ、その図面を一度見せてください。何か突破口が見つかるかもしれません。

 

Q3. 設計者として、5軸加工を依頼する際に、何か気をつけておくべきことはありますか?

A3. 素晴らしいご質問、ありがとうございます! 設計者の方に、一つだけお願いしたいことがあるとすれば、それは「この部品、自分ならどうやって掴むかな?」と、一度だけ想像してみてほしい、ということです。
美しい流線形の、掴みどころのないデザインも魅力的ですが、例えば、後で削り落とすことを前提とした、小さな「平らな部分」や「基準穴」を、設計の段階でこっそり設けておいていただけると、私たちの治具設計が劇的に楽になり、結果として、加工コストも大きく下がることがあります。
そして何より、設計の本当に初期の段階で、私たちのような加工の専門家と壁打ちしていただくこと。これが、最高のモノづくりへの、一番の近道だと、私たちは信じています。

 

あなたのそのアイデア、私たちに“料理”させてください

いかがでしたでしょうか。私たちの頭の中を巡る、少しマニアックな思考の旅。
ここまでお付き合いいただいたあなたなら、きっともうお分かりかと思います。
5軸加工とは、単なる「機械」の名前ではありません。それは、設計者の描いた最高の「レシピ(図面)」を、最高の「料理(製品)」へと昇華させるための、多種多様な調理器具と、それを使いこなすシェフの深い知恵(ノウハウ)の総称なのです。

あなたのCADフォルダの中に眠っている、あの「無理だ」と諦めかけた複雑形状のデータ。
それは、まだ最高のシェフに出会っていない、極上の食材なのかもしれません。

ぜひ一度、私たちに、その食材を“料理”させてはいただけませんか。
どうすれば、その食材の持つポテンシャルを100%引き出し、お客様を感動させられる一皿に仕上げられるか。それを考え、実現することこそが、私たちの仕事の、最大の喜びなのですから。

 

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