【設計者のための複合加工最適化ガイド ~放電×マシニング×研削をどう組み合わせるか?】
目次
1. 導入:加工法の選定に、こんな悩みありませんか?
図面上では完成していても、「マシニングでは届かない形状」「最終面粗さが足りない」「焼入後の精度出しで困った」といった問題に直面したことはありませんか?
特に複雑形状部品や難削材の部品では、【加工法の組み合わせ】によって、品質・納期・コストに大きな差が生じます。
一方で、設計段階で「どの加工法が最適か」を見極めるのは難しく、結果として現場での【試行錯誤や再加工】が発生しがちです。
2. 背景:なぜ“複合加工の最適化”が重要なのか?
現代の部品設計では、1種類の加工だけで仕上げるケースはむしろ少数派です。
例えば――
・機構部品のシャフト穴:外形はマシニング/センター穴は放電/仕上げは研削で±0.005mm公差
・薄肉かつ高硬度材:焼入れ後の寸法仕上げにワイヤーカット→平面研削の流れ
このように、1部品で3~4種の加工法が組み合わさることが一般的です。
しかし、工法ごとの特性を知らずに設計すると――
・削りにくい形状をマシニングで無理に加工し時間がかかる
・熱変形により、研削後に公差から外れる
・放電加工を後工程にしてしまい、残り代が足りなくなる
といった【設計上の“見落とし”が致命傷】になります。
3. 解決アプローチ:工法選定で失敗しないための視点
実務レベルで複合加工の最適解を導くには、以下3つの視点が欠かせません。
① 加工公差と仕上がり品質から“逆引き”する
例えばJIS B 0401基準で「IT6クラス」の公差(±0.01mm程度)が必要なら、研削または放電加工が必要。
マシニングだけでは【面粗さRa1.6μm以下を安定して出すのは難しい】ため、初期段階から仕上げ工程を設計に織り込む必要があります。
② 工法の“順番”と“加工代”を設計段階で考慮する
例:A7075の厚板に深穴を空け、最後に通すワイヤーカットを想定するなら、
・最初に荒加工+焼入れ
・次にワイヤー(放電)で抜き取り
・最後に基準面を平研で仕上げる
といった【工程順に合わせた設計】が必要です。
③ 工場の“段取り目線”を理解する
「形状はできてもチャッキングできない」「バイスが干渉する」「基準面がとれない」
このような問題は、【設計者が加工の“つかみ方”をイメージできていない】ことに起因します。
4. 設計者へのアドバイス:加工を“わかっている設計”のヒント
● 放電加工に適した材質・形状とは?
SKD11・SKH51・インコネル625などの【焼入れ材・硬質材】は放電加工との相性が良く、マシニングではバリ・工具摩耗が問題になる場合も放電で安定した形状が得られます。
ただし、放電では微細コーナーRやクラックが出る場合もあるため、仕上げの工程設計をお忘れなく。
● 研削の“精度リスク”を防ぐには?
高精度が求められる±0.005mm以下の公差で研削を使う場合、【焼入れによる歪み】を見越して荒加工の工程設計も重要です。
また、面粗さ(Ra0.8~0.2)を安定させるには、工具逃げ/段差の処理なども含めて考える必要があります。
● 加工法をまたぐ部品は“治具レスで仕上がらない”と考える
複数の工法が関わる場合は、【中間工程用の仮治具設計】も含めた全体構想が鍵です。
特に、放電後の研削位置合わせや、マシニングで削ったベースに対して再装着する精度管理など、【段取り用治具の存在が成否を分ける】ことが多々あります。
5. 次にすべきこと:まずは“全体像”を相談してみる
複数工程を跨ぐような精密部品では、**図面だけのやり取りでは情報が足りない**ことがほとんどです。
だからこそ――
「どこまでをマシニングで仕上げて、どこから放電に切り替えるか?」
「熱処理前にやるべき加工と後にやるべき加工は?」
といった【工程設計そのものを相談できる加工パートナーの存在】が重要なのです。
【今、手元にある図面が「加工順まで決まっていない」と感じたら…】
それは、“今こそ相談すべきタイミング”かもしれません。
経験豊富な町工場であれば、図面の段階からでも【加工法に応じた設計の見直し提案】を受けることができます。