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【治具設計の基礎】「手作業の限界」を感じる担当者へ。位置決め精度±0.005mmを実現する治具設計の勘所

治具
開発、設計
2025.09.01
  1. その「ひと手間」が、品質の命取りになっていませんか?

「このくらいのズレなら大丈夫だろう」「毎回、定規と目視で合わせれば問題ない」。

製品の試作や組み立ての現場で、そんな風に考えてはいないでしょうか。しかし、その僅かなズレの積み重ねが、最終的な製品の品質を大きく左右し、量産段階で「なぜか不良率が高い」という問題を引き起こすことは少なくありません。

特に、μm(マイクロメートル)単位の精度が求められる精密部品の世界では、手作業による位置決めは限界に達しています。

 

  • 毎回、同じ位置に部品を固定できず、加工精度が安定しない…

  • ・熟練者の感覚に頼った作業が多く、誰でも同じ品質を再現できない…

  • ・検査工程でNGが多発し、手戻りや追加工数で納期が圧迫されている…

 

こうした「あるある」な悩みは、実は「高精度な治具」を一つ導入するだけで、劇的に改善される可能性があります。

本記事では、これまで手作業での位置決めに頼ってきた開発設計者や現場担当者の方々に向けて、位置決め精度±0.005mmという高精度な世界を実現するための治具設計の基本的な考え方と、その重要性について解説します。

 

【なぜ、今さら「治具」の重要性が問われるのか】

治具(じぐ)とは、加工や組み立て、検査の際に、対象物(ワーク)を固定し、位置決めを補助するための器具です。昔から製造業の現場で使われてきた道具ですが、なぜ今、改めてその重要性がクローズアップされているのでしょうか。

 

◆設計の高精度化と、現場作業のギャップ

第一に、製品そのものに求められる精度の高度化が挙げられます。例えば、電子機器の小型化や自動車部品の軽量化に伴い、部品の一つひとつには±0.01mm以下の極めて厳しい寸法公差が求められるようになりました。JIS B 0401(はめあい公差方式)で規定されるような精密な【はめ合い】を実現するには、部品単体の精度はもちろん、それらを正確に組み立てるための位置決め精度が不可欠です。

しかし、設計図でどれだけ厳しい公差を指示しても、それを実現する現場の作業が「人の感覚」に依存していては、品質は安定しません。この「設計要求」と「現場作業」の間に存在するギャップを埋めるのが、まさに治具の役割なのです。

 

◆「段取り時間」という見えないコスト

第二に、多品種少量生産が主流となる中で、「段取り時間」の短縮が生産性向上のカギとなっている点です。毎回、ワークをセットするたびにマイクロメータを片手に位置を微調整する…といった作業は、1回あたりは数分でも、積み重なれば大きな時間的損失(タイムロス)となります。

高精度な位置決め治具があれば、ワークを「置くだけ」「セットするだけ」で、誰がやっても瞬時に±0.005mmの精度で位置決めが完了します。この段取り時間の削減は、リードタイムの短縮とコスト削減に直結する、非常に重要な要素です。

 

◆治具なしで進めることの危険性

「治具はコストがかかるから」と、導入を見送った結果、どうなるでしょうか。

不良品の発生による材料費のロス、追加工による人件費の増大、最悪の場合、納期遅延による信用の失墜にも繋がりかねません。

初期投資を惜しんだ結果、その何倍もの損失を生んでしまう。それが治具設計を軽視するリスクです。

 

◆±0.005mmを実現する治具設計の思考プロセス

では、実際に高精度な位置決め治具を設計する上で、どのような考え方が必要なのでしょうか。ここでは、私たちのような町工場が、お客様から相談を受ける際に実際に踏んでいるプロセスと考え方をご紹介します。

 

Step1. 「基準」をどこに置くか?- 3点支持の原則

治具設計の第一歩は、「どの面を基準にして位置決めをするか」を明確に定義することです。これを「設計基準」と呼びます。一般的に、ワークは「基準面」「基準線」「基準点」の3つを拘束することで、空間的に一意の位置に定まります。

 

  • 基準面(主基準): 最も面積が広く、安定して支持できる面を3点で支持します。(これで上下左右の傾きが決まる)

  • 基準線(副基準): 主基準面に直角な面を2点で支持します。(これで回転方向が決まる)

  • 基準点(第三基準): 上記2つの面に直角な面を1点で支持します。(これで前後の位置が決まる)

 

この「3点-2点-1点」の原則(ロケーターの原理)に基づいて基準を定めることが、すべての基本です。簡単なようで、どの面を基準に選ぶかによって、治具の使いやすさや精度が大きく変わってきます。

 

Step2. 再現性をもたらす「クランプ」の設計

基準を決めたら、次にワークを治具に固定する「クランプ」を設計します。ここで重要なのは、「誰が作業しても同じ力で、同じ位置に固定できるか」という再現性です。

  • ・クランプ力の方向: 必ず、ワークを基準面に押し付ける方向に力を加えます。横から押すだけでは、ワークが浮き上がってしまう可能性があります。

  • ・クランプ方法の選定: トグルクランプ、ねじ式クランプ、油圧・空圧クランプなど、ワークの形状や求められる固定力、作業性に応じて最適な方式を選定します。例えば、試作段階で頻繁に着脱するなら操作が簡単なトグルクランプ、量産で確実な固定が必要ならねじ式や動力クランプといった使い分けが必要です。

Step3. 治具本体の材質と加工法

治具本体の材質選定も、精度を長期的に維持する上で非常に重要です。

  • ・材質選定: 一般的にはS50C(機械構造用炭素鋼)やSKD11(合金工具鋼)などが使われますが、軽量化が求められるならアルミ(A7075など)、摩耗性が問題になる接触部には超硬合金を使うなど、用途に応じた選定が不可欠です。特に、温度変化による膨張・収縮が精度に影響を及ぼす場合は、熱膨張係数の低い材質を選ぶ必要があります。

  • ・加工方法: 基準面となる部分は、マシニングセンタでの切削加工後に、さらに高精度な研削加工(グラインダー加工)で仕上げるのが一般的です。これにより、平面度や直角度をμm単位で保証します。複雑な形状や硬質な材料(硬質材)を扱う場合は、放電加工を組み合わせることで、切削だけでは不可能な形状も実現できます。

 

 

◆プロが教える「もう一歩」の工夫

ここからは、実際に治具を使う現場の視点や、加工する側の視点から、より実用的な治具を設計するためのアドバイスをいくつかご紹介します。

 

・アドバイス1:切り屑の「逃げ」を設計する

加工用の治具で意外と見落とされがちなのが、「切り屑の逃げ道」です。加工中に発生した切り屑が基準面や位置決めピンの間に溜まると、それが原因でワークが正しくセットされず、加工不良を引き起こします。

治具を設計する際は、切り屑が溜まりにくく、かつ清掃しやすいように、溝や穴を設けるといった配慮が必要です。この一手間が、現場での使いやすさを大きく向上させます。

 

・アドバイス2:「測定」のことまで考えて設計する

治具にセットした状態で、本当に正しく位置決めできているか、主要な寸法を測定できるか、という視点も重要です。マイクロメータや三次元測定機のプローブが入るスペースをあらかじめ確保しておくことで、工程内での品質チェックが容易になり、問題の早期発見に繋がります。

 

・アドバイス3:設計変更やリカバリー対応のエピソード

以前、お客様から「量産開始直前に製品の設計変更があり、治具が使えなくなってしまった」という緊急のご相談をいただいたことがあります。納期まで時間がない中、私たちは既存の治具をベースに、変更部分のみを交換可能な「アタッチメント式」にする改造を提案しました。

具体的には、マシニングで既存の治具の一部を削り取り、そこに新しい形状に合わせたブロックをボルトで固定できるように精密な穴加工とタップ加工を施したのです。これにより、治具を丸ごと作り直すよりも大幅にコストと時間を削減でき、無事に量産開始に間に合わせることができました。

こうしたリカバリー対応ができるのも、加工現場の知見があってこそです。

 

 

【その悩み、図面になる前に相談しませんか?】

ここまで、高精度な位置決め治具の重要性と設計の考え方について解説してきました。

もし、あなたが今、

 

「手作業での位置決めに限界を感じている」

「治具の必要性はわかるが、どこから手をつけていいかわからない」

「既存の治具が使いにくく、改善したいと思っている」

 

と感じているのであれば、一度、その悩みを私たちのような町工場に相談してみるのも一つの選択肢です。

完成された図面がなくても構いません。手書きのポンチ絵や、「こんなことで困っている」という課題の共有からでも、私たちは解決策を提案できます。むしろ、アイデア段階でご相談いただくことで、よりコストを抑え、かつ効果的な治具の設計提案が可能です。

小さな改善が、未来の大きな成果に繋がります。その第一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか?

 

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