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【技術解説】0.001mmを追う複合加工の極意|マシニングセンタ×ワイヤー放電加工で挑む「薄肉・高剛性」一体部品の製作工程

マシニング加工
ワイヤーカット放電加工
2025.11.27

◆なぜ、その形状は「作れない」と言われるのか?

現代の産業機械や精密機器の設計において、部品の小型化・軽量化、そして高機能化は止まるところを知りません。設計者の皆様がCAD上で描く理想の形状は、時に加工現場の常識を遥かに超える難易度になることがあります。

特に、今回ご紹介する事例のような「剛性が求められるブロック部」「極めて薄く繊細なフォーク部」が同居する形状。これを「一体物」として削り出すことは、多くの加工業者が敬遠する案件です。

「切削では先端がビビって精度が出ない」

「工程を分けると、芯がズレて使い物にならない」

もし、あなたがそのような理由で設計変更を余儀なくされているとしたら、少し待ってください。私たち株式会社関東精密には、その課題を解決する「複合加工」のノウハウがあります。今回は、実際に製作したサンプル製品をもとに、マシニング加工とワイヤーカット加工を融合させた、当社の技術の全貌を徹底解説します。

 

 

◆製品解析|相反する要素を持つ「難形状」

まずは、今回製作したこの製品(画像参照)をご覧ください。一見するとシンプルな金属部品に見えるかもしれませんが、ここには加工技術における多くの「矛盾」が含まれています。

1. 圧倒的な「薄肉」形状

製品先端の二股に分かれたフォーク部分は、非常に薄い壁面で構成されています。この部分を一般的な切削工具(エンドミル)で削ろうとすれば、工具の回転圧力(切削抵抗)により、薄い壁が逃げてしまい、「ビビリ(振動)」が発生します。最悪の場合、加工中にワークが変形・破損してしまいます。

2. 高精度な「幾何公差」

一方で、根本のブロック部分は、相手部品と強固に締結するための座面や、精密な穴あけ加工が施されています。このブロック部の基準面に対し、先端のフォーク形状が高い「直角度」「平行度」「位置度」を持っていなければ、部品としての機能を果たしません。

3. 「一体構造」へのこだわり

これを2つの部品に分けてボルト止めすれば、製作は簡単です。しかし、それでは部品点数が増え、組立公差によるズレが生じ、剛性も低下します。「一体で作る」ことには、設計上の譲れない理由があるのです。

◆工程設計|マシニングとワイヤーカットの役割分担

この難題をクリアするための正解は、2つの異なる加工機を適材適所で使い分ける「複合加工」です。

マシニングセンタ(MC)の領域:3次元的な形状創成

まず第一工程として、マシニングセンタを使用します。ここでは、以下の加工を行います。

  • 外形荒加工: 素材から大まかなブロック形状を削り出します。

  • 穴あけ・タッピング: ボルト穴や位置決めピン用の穴を高精度に開けます。

  • 面取り・3D形状: 切削でしか出せないR形状や斜めの面取りを行います。

マシニングセンタは「剛性のある加工」が得意です。しかし、先端の薄肉部分に手を出してはいけません。ここを削り始めると、ワークの剛性が落ち、精度が崩壊するからです。

ワイヤー放電加工機(Wire EDM)の領域:非接触による精密カット

次に、ワイヤー放電加工機へバトンタッチします。ここで初めて、先端のフォーク形状を切り出します。

ワイヤーカットの最大のメリットは「非接触加工」である点です。髪の毛ほどの細さの真鍮ワイヤーから放電し、金属を溶かしながら切断するため、ワークに対して物理的な押し付ける力(切削抵抗)が一切かかりません。

これにより、今回のようなペラペラの薄肉形状であっても、歪むことなく、設計値通りの垂直な壁面を作り出すことが可能になります。

◆技術の核心|工程間を繋ぐ「究極の段取り」

「マシニングで削って、ワイヤーで切ればいい」。言葉にすれば簡単ですが、多くの工場がこれを失敗します。その原因は「段取り(セットアップ)」にあります。

機械からワークを取り外し、別の機械にセットし直す。この瞬間に、ミクロン単位のズレが必ず生じます。マシニングで開けた穴の中心と、ワイヤーカットで切るフォークの中心が0.01mmでもズレていれば、それは不良品です。

独自の治具設計と芯出し技術

当社では、この「乗せ替え誤差」をゼロに近づけるために、以下の技術を駆使しています。

  1. 共通基準面の創出:

    マシニング工程の段階で、ワイヤーカット時の「完全な基準(捨て加工面)」を作り込みます。製品図面にはない、加工のためだけの基準面です。

  2. 高精度タッチプローブによる補正:

    ワイヤーカット機上で、マシニング加工済みの穴や基準面を1/1000mm単位で計測(芯出し)。機械座標系をワークの実測値に完全に同期させます。

  3. 応力除去(アニール)の考慮:

    金属は削ると内部応力が解放され、反りが発生します。複合加工では、この「加工途中の反り」まで予測し、工程間に適切な「なまし」や「荒取り」を入れることで、最終寸法の狂いを防ぎます。

画像の製品が、継ぎ目を感じさせない滑らかな一体感を持っているのは、この徹底した座標管理があるからです。

◆Q&A|技術的な疑問にお答えします

Q1: このような複合加工に適した材質は何ですか?

A: ワイヤーカットは電気を通す材質(導電性)であれば加工可能です。

  • ステンレス(SUS303, SUS304, SUS316Lなど): 耐食性が高く、複合加工の依頼が最も多い材質です。

  • 特殊鋼(SKD11, SCM440など): 熱処理後の高硬度材でも、ワイヤーカットなら問題なく高精度加工が可能です。

  • チタン・チタン合金: 難削材ですが、非接触加工のメリットを最大限に活かせます。

  • アルミ(A5052, A7075など): 高速加工が可能ですが、熱変形しやすいため温度管理が重要です。

Q2: 最小コーナーRはどこまで攻められますか?

A: ワイヤーカットの線径に依存します。

一般的にはφ0.2mmのワイヤーを使用するため、入隅のRは最小でR0.1mm程度となります。さらに微細な加工が必要な場合は、φ0.1mm以下の細線ワイヤーを使用することで、R0.05mm程度のシャープエッジに近づけることも可能です。設計段階でご相談ください。

 

Q3: 精度はどの程度まで保証できますか?

A: 形状やサイズによりますが、複合加工における位置決め精度として±0.005mm〜0.01mmを目指して加工しています。恒温室での管理と、三次元測定機による実測保証を行っています。

 

Q4: 試作1個からでも対応していますか?

A: はい、大歓迎です。むしろ、今回のような難形状部品は、量産前の試作開発段階でこそ真価を発揮します。「他社で断られた」「形状が複雑すぎて見積もりが出ない」といった案件こそ、ぜひお声がけください。

 

◆品質保証|「測れないものは作れない」

「加工できました」と言っても、それが図面通りであることを証明できなければ意味がありません。特に今回のような複合加工品は、一般的なノギスやマイクロメーターでは測定できない箇所が多々あります。

当社では、最新の画像寸法測定器およびハンディプローブ式三次元測定機を導入しています。

  • ブロック部の穴位置や平面度を測る接触式三次元測定

これらを駆使し、加工者自身による工程内検査と、品質管理部門による出荷前検査のダブルチェック体制を敷いています。お客様の手元に届くのは、データに裏付けされた「確かな品質」のみです。

◆コストと納期の考え方|最適解を導くために

複合加工は、正直に申し上げれば、単純な切削加工よりもコストは割高になりがちです。2つの工程を経るため、チャージ(加工賃)と段取り工数が発生するからです。

しかし、以下の視点で考えると、トータルコストダウンに繋がるケースが多くあります。

  1. 組立工数の削減: 一体化することで、調整や組立の手間がなくなります。

  2. 品質リスクの低減: 部品点数を減らすことで、故障リスクや管理コストが下がります。

  3. 設計の自由度: 「加工できるか」を気にせず、機能最優先の設計が可能になります。

「コストを抑えつつ、この機能を実現したい」というご相談も承ります。例えば、重要でない箇所の公差を緩和したり、隅Rを大きくすることでワイヤー加工速度を上げたりと、VE(Value Engineering)提案も積極的に行っています。

◆その「不可能」を「可能」にするパートナーとして

今回ご紹介した製品写真は、私たちの技術のほんの一部に過ぎません。

しかし、この小さな金属片の中には、創業以来積み重ねてきた「いかにして高精度なモノを作るか」という情熱と、数多の失敗から学んだノウハウが凝縮されています。

マシニング加工の機動力と、ワイヤーカット加工の精密さ。

この2つを高い次元で融合させることができる関東精密だからこそ、提供できる価値があります。

「図面通りのモノがなかなか上がってこない」

「もっと精度の高い試作を作りたい」

「開発中の製品について、加工の観点からアドバイスが欲しい」

そんなお悩みをお持ちの設計者様、調達担当者様。ぜひ一度、図面をお送りください。

私たちが、あなたの「作りたい」をカタチにします。

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