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「測る人によって数値が違う」という悪夢。検査治具の設計で品質保証の信頼を取り戻すためのガイドライン

製造現場において、加工不良と同じくらい、あるいはそれ以上に担当者の心を削るのが「測定に関するトラブル」ではないでしょうか。

・午前中は合格だったのに、午後にもう一度測ると不合格になる。
・熟練のAさんが測るとOKだが、新人のBさんが測るとNGになる。
納品先から「寸法が外れている」とクレームが来たが、社内データでは公差内に入っている。

こうした「測定のバラつき」は、単なる寸法の問題を超えて、品質保証体制そのものへの信頼を揺るがしかねない深刻な課題です。しかし、その原因の多くは測定者のスキル不足でも、測定器の故障でもありません。実は「ワークの支え方」、すなわち検査治具(測定治具)の設計に根本的な原因が潜んでいるケースが非常に多いのです。

今回は、品質管理のストレスを軽減し、誰が測っても同じ数値が出る「再現性の高い検査治具」を設計するための重要な視点についてお話しします。

 

 

◆加工治具と検査治具の決定的な違い

まず、設計思想の根本的な違いを整理しましょう。
マシニングセンタや旋盤で使用する「加工治具」の最大の目的は、切削抵抗に負けない「強力な固定」です。ワークが動かないことが最優先されます。

一方で、「検査治具」に求められるのは、固定力ではありません。「再現性」と「変形のなさ」です。
加工治具と同じ感覚で強力なクランプで締め付けてしまうと、ワークが弾性変形した状態で測定することになります。これでは、治具から外した瞬間に寸法が変わり、正しい評価ができません。

検査治具の設計においては、「いかに力をかけずに、常に同じ位置にワークを置けるか」という、加工時とは逆の発想が必要になります。

 

◆測定バラつきをなくす3つの設計アプローチ

では、具体的にどのような構造にすれば、人による誤差(個人差)を排除できるのでしょうか。

 

データム(基準)の完全一致

測定誤差が生まれる最大の要因は、加工時の基準面と、測定時の基準面がズレていることです。
図面上のデータム(幾何公差の基準)を忠実に再現することが大前提ですが、時には図面の指示が測定の実情に即していないこともあります。

検査治具を設計する際は、加工工程でどの面を基準に削ったのかを正確に把握する必要があります。加工基準と測定基準を一致させることで、加工のズレなのか、測定のズレなのかが明確になります。
また、基準面が荒れている場合や、鋳肌である場合は、3点支持(面ではなく点で受ける)構造を採用し、ガタつきを物理的に排除する設計が有効です。

 

「自重たわみ」とクランプ圧の管理

薄肉のリング形状や、樹脂部品、アルミの長尺ワークなどは、置いておくだけで自重により数ミクロンから数十ミクロンの変形が生じることがあります。
これを防ぐためには、ワークを変形させないための「サポート(補助支柱)」の配置が重要です。しかし、サポートを強く当てすぎれば、逆にワークを持ち上げて歪ませてしまいます。

ここで役立つのが、バネ圧を利用したフローティング機構や、定圧クランプです。
「作業者がレバーを思い切り締める」のではなく、「バネの力で一定の圧力がかかる」構造にすることで、誰がセットしても同じ力でワークが保持されるようにします。測定においては、指一本で動かない程度の保持力があれば十分な場合がほとんどです。

 

測定器の当て方をガイドする

ノギスやマイクロメーター、あるいはデプスゲージを手持ちで当てる場合、当てる角度や場所が毎回微妙に異なります。これが数値のバラつきの主犯です。

検査治具には、測定器自体をガイドする機能を盛り込みましょう。
例えば、ダイヤルゲージを使用する場合、ゲージを取り付けるスタンドと治具を一体化させ、測定子は常に同じポイントに当たるように設計します。
また、隙間ゲージやピンゲージを通す検査であれば、ゲージを通すためのガイド穴やスリットを設けることで、斜めに挿入してしまうミスを防げます。
「測る場所を探す」という作業をなくし、「セットして数値を読むだけ」の状態まで落とし込むことが、設計者の腕の見せ所です。

 

 

◆全数検査を「流れ作業」にする工夫

品質保証のためには全数検査が理想ですが、検査に時間がかかりすぎて生産のボトルネックになっては本末転倒です。
現場に寄り添う検査治具は、スピードも考慮されています。

例えば、複数の検査項目(内径、高さ、同軸度など)がある場合、それぞれの測定器を持ち替えるのは大きなロスです。
ひとつの治具ベースに複数のダイヤルゲージを配置し、ワークをセットしてハンドルを1回転させるだけで、すべての項目の振れや寸法が確認できる「多点同時測定治具」を検討してみてください。

また、OK/NGの判定を直感的にするために、ダイヤルゲージの文字盤に公差範囲を色分け表示したり、デジタル表示機と接続して判定ランプを点灯させたりする工夫も、検査員の精神的負担を大きく減らします。

 

◆「校正」ができる構造を残す

検査治具は作って終わりではありません。使い続ければ、治具自体も摩耗します。
治具の精度が狂っていないかを定期的に確認できるよう、基準となる「マスターゲージ(校正用ワーク)」をセットで製作することを強く推奨します。
ゼロ点合わせがすぐにできる構造にしておくことで、始業前点検がスムーズになり、万が一異常値が出た際も、製品が悪いのか治具が悪いのかを即座に切り分けられます。

 

◆最後に

検査治具は、直接利益を生み出すものではないため、どうしてもコスト削減の対象になりがちです。
しかし、不確かな測定による「過剰品質(良品をNGにしてしまう)」や「クレーム流出(NG品を出荷してしまう)」のコストは、治具の製作費をはるかに上回ります。

「検査の結果に自信が持てない」
「測定にかかる時間を短縮したい」

もしそのようなお悩みをお持ちであれば、一度、検査治具のプロフェッショナルにご相談ください。
図面通りの公差が出ているかを測るだけでなく、現場の方が安心して「良品です」と胸を張って言える。そんな環境を作るための治具をご提案させていただきます。

 

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