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「マシニング加工だけでは到達できない」治具精度の壁。平面度・平行度0.005mm以下を実現する「研削(研磨)」技術の活用法

開発、設計
平面研削加工
2025.11.12

なぜ高精度治具には「平面研削」が不可欠なのか? 設計者が知っておくべき仕上げの知識

 

◆「あと一歩」が詰められない。マシニング加工の精度の悩み

「最新の5軸マシニングセンタを導入したのに、なぜか治具の平面度が0.01mmを切れない」
「プログラム上は完璧なはずが、クランプを外した瞬間にワークが反ってしまい、精度が台無しになる」
「治具の基準面がガタついていて、製品をクランプするたびに加工精度がバラつく」

生産技術者や設計者の皆様から、このような「あと一歩」の精度が出ないという、切実な悩みを伺うことがよくあります。特に、測定治具や検査治具、精密組立治具など、ミクロン単位の幾何公差(平面度・平行度)が要求される世界では、この「あと一歩」が品質の生命線となります。

高性能なマシニングセンタ(MC)は、現代のモノづくりに不可欠な存在です。しかし、どれほど高性能な機械を使っても、「切削(Cutting)」という加工方法である以上、物理的な限界が存在します。

もし、あなたが「マシニング加工で仕上げたのに精度が出ない」とお悩みなら、その原因は加工機ではなく、「仕上げ」のプロセスにあるのかもしれません。

その悩み、切削だけで解決しようとしていませんか?
ミクロン単位の「真の平面」を創り出す鍵は、「研削(Grinding)」という選択肢を持つことにあります。本記事では、既存の人気記事「高精度を実現する平面研削」の続編・応用編として、特に「治具製作」という観点から、なぜ研削加工が不可欠なのか、その技術的な理由と活用法を徹底的に解説します。

 

◆なぜ高精度治具に「平面研削」が不可欠なのか?

治具は、それ自体が製品ではありません。しかし、治具の精度が、その上で加工・検査される「すべての製品」の品質を決定づけます。治具、特に「基準面」の精度が狂っていることは、”狂った定規”でモノを作ることに他ならず、最悪の場合、全数不良という事態を招きかねません。

では、なぜその重要な基準面をマシニング加工だけで出すのが難しいのでしょうか。それは「切削」と「研削」の決定的な違いにあります。

 

切削(マシニング)と研削(グラインディング)の決定的違い

切削の限界:避けられない「抵抗」と「歪み」

マシニング加工は、エンドミルなどの刃物が回転しながら材料を「削り取る」加工です。この時、必ず「切削抵抗」が発生します。

・工具の「逃げ」と「びびり」:
切削抵抗によって、工具(エンドミル)はミクロン単位で「逃げ(たわみ)」ます。また、ワーク自体も振動(びびり)を起こします。これにより、意図した通りの平面が出ず、微妙なうねりや凹凸が残ります。
・残留応力と加工歪み:
刃物が材料を「むしり取る」プロセスは、材料表面に大きなストレス(残留応力)を残します。これが、加工中(特にクランプ中)は隠れていますが、クランプを解放した瞬間に「反り」や「ねじれ」として現れる**「加工歪み」**の正体です。熱処理後の材料(SKD11やS45CのHRC50超など)では、この傾向はさらに顕著になります。

 

研削の優位性:「創成」される真の平面

一方、研削加工は、高速回転する「砥石」を構成する無数の微細な砥粒(刃)で、材料表面をわずかずつ「削ぎ落とす」加工です。

・微細な切り込みと低抵抗:
一つ一つの砥粒による切り込みは非常に浅いため、切削抵抗が極めて小さく、工具の「逃げ」やワークの「びびり」を最小限に抑えられます。
・「スパークアウト(ゼロカット)」による平面創成:
研削加工の真骨頂は「スパークアウト(ゼロカット)」にあります。これは、切り込みをゼロにした状態で砥石を往復させ、火花(スパーク)が出なくなるまで加工を続ける手法です。切削抵抗が限りなくゼロになるまで表面を「ならす」ことで、マシニング加工で生じた微細な凹凸や残留応力を除去し、歪みのない「真の平面」を創り出すことができます。

 

幾何公差(平面度・平行度)へのアプローチ

設計者が図面に記入する公差には「寸法公差(±0.01mmなど)」と「幾何公差(平面度 // 0.005mmなど)」があります。

マシニング加工は「寸法公差」を出すのは得意です。しかし、治具で本当に重要なのは「面」そのものの正しさ、すなわち「幾何公差」です。

・平面度: 面全体がどれだけ真っ直ぐか。
・平行度: ある基準面に対して、もう一つの面がどれだけ平行か。

マシニングで仕上げた面は、一見キレイでも、マイクロメータで測ると場所によって寸法が違ったり、光を当てると「うねり」が見えたりすることがあります。これは平面度が出ていない証拠です。

平面研削は、この「平面度」「平行度」といった幾何公差をミクロン単位(0.005mm、場合によっては0.002mm)で保証するための、最適な仕上げ加工なのです。

 

 

◆プロが教える「高精度研削」の勘所

「では、研削盤に乗せれば自動的に精度が出るのか?」
答えは「ノー」です。高精度な平面研削には、マシニング加工とは比較にならないほどの繊細なノウハウ、いわば「職人技」が要求されます。

治具精度の成否は、加工の最終段階ではなく、**「段取り(チャッキング)」**で8割決まると言っても過言ではありません。

 

段取りの技術:歪みを「殺す」か「活かす」か

平面研削では、多くの場合「マグネットチャック」でワークを固定します。しかし、このマグネットが諸刃の剣です。

・マグネットチャックの「歪み」:
強力な磁力は、ワークをテーブルに「無理やり」吸着させます。もしワーク自体に反りがあっても、磁力で平らに矯正されてしまうため、その状態で研削すると、チャックをOFFにした瞬間にワークは元の反った形に戻ろうとします(いわゆる「バネ」)。
・「フリー加工(自由状態)」の職人技:
真のプロは、ワークの歪みをマグネットで殺しません。ワークをチャックに乗せ、あえて磁力を弱めたり、ON/OFFを繰り返したりしながら、シックネスゲージやペーパー(薄い紙)をワークとテーブルの隙間に差し込みます。
・シム調整:
隙間がある箇所(=ワークが浮いている箇所)に、隙間の厚みと同じシム(薄い金属板)を差し込み、ワークが最も「自然な状態(=自由状態)」で固定されるように調整します。この状態で研削(歪み取り)を行うことで、ワーク内部の応力を解放しながら、真の平面を削り出していきます。

この「歪み」を読む力こそが、治具の平面度・平行度を保証する核心技術です。

 

砥石の選定とドレス(目立て)

ワークの材質によって、最適な砥石は全く異なります。

・材質: S45CやS50Cなどの一般鋼、SKD11やSKH51などの工具鋼、SUS304やSUS316などのステンレス、アルミ、超硬など。
・熱処理: 生材か、焼入れ(HRC60など)が入っているか。

これらに合わせ、砥石の「砥粒」「結合度」「組織」を選定します。また、研削を続けると砥石の「切れ味(目)」は悪くなります。切れ味の悪い砥石は、材料を削るのではなく「擦る」ようになり、過大な研削熱を発生させます。これが熱変位による新たな歪みの原因です。

・「ドレッシング」(ダイヤモンド工具で砥石の表面を削り、常に新しい切れ刃を出す作業)のタイミングと方法が、加工精度と面粗度を左右します。

 

 熱変位の抑制

ミクロン単位の加工では、わずかな温度変化も許されません。研削熱によるワークの「膨張」は、研削盤の上で起こる最大の敵です。

・クーラント管理: 大量のクーラント(研削液)を適切な場所に、適切な圧力でかけることで、研削点とワーク全体を冷却・潤滑します。液の温度管理も重要です。
・パス回数と切り込み量: 精度が必要な仕上げ段階では、切り込み量を1~2ミクロン(0.001mm~0.002mm)単位で調整し、熱の発生を抑えながら、焦らずじっくりと加工します。

 

◆設計者視点でのアドバイス:研削を前提とした「賢い設計」

「研削(研磨)はコストがかかる」と敬遠される設計者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ポイントを押さえた「賢い設計」をすることで、コストを抑えつつ品質を劇的に高めることが可能です。

 

コストと品質:「全面研磨」は本当に必要か?

図面全体に「全面研磨仕上げ」と指示すると、加工工数は膨大になります。本当にミクロン単位の精度が必要なのはどこでしょうか?

・「基準面」と「当たり面」のみに研削指示を:
治具の機能として、製品が接触する面、位置決めの基準となる面、他の治具と組み合わさる面など、機能的に不可欠な面に限定して「Gマーク(研磨指示)」を入れるのが、コストパフォーマンスに優れた設計です。
・メリハリのある公差指示:
「この面は平行度0.005mmが必要だが、こちらの面はマシニング仕上げ(0.02mm)で構わない」というメリハリが、加工業者の工数を最適化し、結果としてVA/VE(コストダウン)に繋がります。

 

「研削代(取り代)」の設定ミスをなくす

研削加工は、前工程(マシニング)で残された「研削代(取り代)」を削る作業です。この設定が非常に重要です。

・研削代が少なすぎる場合
マシニング加工で発生した「加工硬化層」や、熱処理で生じた「歪み(曲がり)」の層を除去しきれず、研削しても精度が出ない原因となります。
・研削代が多すぎる場合:
研削時間が長くなり、コストアップに直結します。また、研削量が多いとそれだけ発熱も多くなり、熱変位のリスクが高まります。

一般的な目安として、熱処理後の研削代は片側0.1mm~0.3mm程度を見込むことが多いですが、これはワークのサイズや形状、熱処理方法によって変動します。加工業者と事前に「研削代はどれくらい見込めば良いか」をすり合わせておくことがトラブル回避の鍵です。

 

研削しやすい形状設計:「逃げ溝(ヌスミ)」の活用

平面研削で使用する砥石は、円盤形状です。そのため、砥石の側面(コーナー)には必ずわずかなR(丸み)がついています。

もし、図面で「直角の隅(ピン角)」まで平面研削を指示していると、砥石が隅まで届かず、加工ができません。

・「逃げ溝(ヌスミ)」(研削ニゲとも呼ばれます)を設計段階で設けておくことは、非常に重要です。隅にわずかな溝を入れておくことで、砥石が干渉せず、目的の面を端までしっかりと研削することができます。これは、加工のしやすさ(=コストダウン)と精度の安定化に直結する、設計者の素晴らしい「一手」です。

 

◆マシシニングの「次の一手」をご提案します

高性能マシニングセンタの登場により、多くの加工が切削で完結できるようになりました。しかし、「ミクロン単位の幾何公差」が要求される高精度治具の世界では、今も昔も「平面研削」による仕上げが不可欠です。

・「図面に『G(研磨)』マークを入れたいけれど、コストが心配」
・「熱処理後の歪み取りがうまくいかない」
・「マシニングで仕上げた治具の平面度・平行度に、どうしても納得がいかない」

そう感じているなら、ぜひ一度、ご相談ください。

 

高精度治具は、単一の加工技術だけでは作れません。材料の選定、適切な熱処理、歪みを考慮した切削加工、そして最終的な研削仕上げ。これら一連の加工プロセス全体を見通せる知見がなければ、図面上の「0.005mm」という数字は実現できません。

 

私たちは、お客様の図面や要求仕様に基づき、マシニング加工と研削加工の最適な使い分け、いわば「マシニングの次の一手」をご提案します。平面度・平行度にお悩みの方、既存の治具の精度アップをご検討の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

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