「なぜ、この部品はこんなに高いのか?」その見積もり額には理由があります。加工のプロが教える、品質を落とさずにコストを劇的に下げる「VA/VE設計」の勘所
目次
▼こんな方に読んでほしい
・設計した部品の見積もりを取ったら予想以上に高額で、コストダウンのネタを探している設計者
・「この公差、本当に必要ですか?」と加工業者に聞かれたことがあるが、判断基準がわからず「念のため」で厳しい数値を設定している開発担当者
・機能は変えずに、製造コストだけを下げたいと考えている、購買・調達部門の責任者
◆その「念のため」の公差が、コストを倍にしているかもしれません
「予算オーバーです。もっと安くなりませんか?」
「相見積もりを取りましたが、御社も他社も、想定の倍以上の金額です。なぜこの形状でこんなに高いのですか?」
日々、図面とお見積もりをやり取りする中で、私たちはこのような切実なご相談を頻繁にいただきます。
設計者様にとって、機能要件を満たすことは最優先事項です。しかし、その機能をどのような「形状」と「精度」で実現するかによって、製造コストは天と地ほど変わります。
実は、コストを押し上げている犯人の多くは、図面の隅々に潜む「過剰品質」や「加工困難な形状」です。
「内側の角は、とりあえず直角(ピン角)で描いておこう」
「嵌合するか不安だから、全体に±0.01mmの公差を入れておこう」
「穴の深さは、深いほうがボルトが安定するだろう」
設計段階での、こうした「念のため」や「何気ない」設定が、加工現場では「特注工具が必要」「放電加工という別工程が必要」「加工時間が3倍になる」といった、コスト増大の要因(コストドライバー)となって跳ね返ってきます。
本記事では、私たち加工のプロフェッショナルが、普段どのような視点で図面を見てコストを算出しているのか、その裏側を公開します。そして、品質や機能を一切犠牲にすることなく、設計を少し工夫するだけでコストを劇的に下げる「VA/VE(価値分析/価値工学)」の具体的なポイントを解説します。
◆コストを吊り上げる「3つの罠」と、その回避策
加工コストは、「材料費」+「加工チャージ(時間)」+「工具・治具費」+「管理費」で構成されます。このうち、設計次第で最も大きく変動するのが「加工チャージ」です。ここを削減するための3つの鉄則をご紹介します。
【罠1:内角の「ピン角(R0)」】
図面上で、ポケットや溝の四隅が直角(R0)になっているケースです。
切削加工で使用するエンドミルは丸い刃物なので、回転しながら削ると必ず内側に半径(R)が残ります。R0にするためには、エンドミルでは加工できず、「ワイヤーカット」や「型彫り放電」といった、電極を作って電気で溶かす特殊な追加工程が必要になります。これだけで、コストは数倍に跳ね上がります。
・解決策(VA/VE提案):
「相手部品と干渉しない」ことが目的であれば、隅に「逃げ(ドリル穴やアンダーカット)」を設けるか、可能な限り大きな「隅R」を設定してください。
Rが大きければ大きいほど、太い(剛性の高い)工具で高速加工が可能になり、加工時間が短縮されます。どうしても角が必要な場合でも、「R0.2以下」と「R3.0」では、加工費に雲泥の差が出ます。
【罠2:深すぎる「穴」と「ポケット」】
「直径5mmで、深さ50mmの穴」や「幅10mmで、深さ80mmのポケット加工」。
設計上は簡単に描けますが、加工現場では悲鳴が上がります。工具の直径(D)に対する突き出し長さ(L)の比率(L/D)が大きくなると、工具の剛性は急激に低下し、ビビリ(振動)が発生します。
これを防ぐために、加工速度を極端に落としたり、高価な特殊防振工具を使用したりする必要があり、加工時間が指数関数的に伸びます。
・解決策(VA/VE提案):
一般的に、エンドミル加工の深さは工具径の「3倍から5倍(L/D=3〜5)」までが経済的な範囲です。それ以上深い場合は、標準工具では届きません。
穴やポケットの深さは必要最低限にするか、裏側からザグリを入れて加工深さを浅くする、あるいは部品を分割する構造を検討してください。
【罠3:全体への「幾何公差」と「厳しい寸法公差」】
「ベースプレートの平面度0.01mm」「全寸法の公差±0.02mm」。
精密機器だからといって、全ての面に厳しい公差を入れる必要はありません。公差が0.01mm厳しくなるだけで、工程は「フライス(一般)」から「研削(精密)」へと変わり、温度管理された恒温室での加工と測定が必須になります。機能に関係のない「逃げ」や「空中にある面」にまで公差が入っていると、無駄な検査コストが発生します。
・解決策(VA/VE提案):
「機能にとって重要な箇所(ベアリングが入る穴、基準面)」と「なりゆきで良い箇所(外形、肉抜き穴)」を明確に区別してください。
私たちは、「ここは重要だから研削仕上げ」「ここは切削のままでOK」というメリハリの効いた図面を見ると、「この設計者はわかっているな」と感じ、無駄な安全マージン(予備費)を削った、攻めの見積もりを出すことができます。
◆実例:設計変更でコスト50%ダウンを実現したケース
実際に私たちが提案し、大幅なコストダウンに成功した事例をご紹介します。
事例:半導体製造装置向けアルミブラケット
・元の設計:
- 材質:A7075(超々ジュラルミン)
- 形状:ブロックからの総削り出し
- 内角:全てR0.5指示
- 公差:全体に±0.02mm
・課題:
材料費が高く、削り出しによる材料廃棄率が80%を超えていました。また、深いポケットの四隅がR0.5と小さいため、φ1mmの極細エンドミルで長時間かけて仕上げる必要があり、加工費が高騰していました。
・VA/VE提案と結果:
1. 材質変更:強度がそこまで必要ない箇所だったため、A5052(一般的なアルミ)へ変更し、材料費をダウン。
2. 構造変更:L字型のブロック削り出しをやめ、2枚の板をボルト締結する「組み立て構造」に変更。これにより、材料の無駄が減り、加工も容易なプレート加工のみになりました。
3. 形状変更:ポケットの隅Rを、R0.5からR3.0に変更。これによりφ6mmの工具が使えるようになり、加工速度が6倍になりました。干渉する相手部品側を面取りすることで機能も維持しました。
・結果:
機能と品質を維持したまま、製造コストを「55%削減」することに成功しました。
◆よくある質問(FAQ)
Q1:図面を描き終わってから相談するのでは遅いですか?
A1:可能であれば、図面を確定する前、構想段階やラフスケッチの段階でご相談いただくのがベストです。「この形状だと、加工費が高くなりますか?」「ここを分割すれば安くなりますか?」といったご質問に、その場でお答えできます。出図後の変更は、社内の承認プロセスなどで手間がかかることが多いため、設計の初期段階での「加工性検討(DFM)」が最も効果的です。
Q2:数量が1個だけの試作品でも、コストダウン提案はしてもらえますか?
A2:もちろんです。試作の段階でコストのかかる要素を排除しておけば、将来的に量産へ移行した際のトータルコスト削減効果はさらに大きくなります。私たちは、1個の試作であっても「量産を見据えた設計」のアドバイスを行います。
Q3:コストダウンを提案してもらうには、どのような情報を伝えればいいですか?
A3:図面だけでなく、「その部品の機能・役割」と「絶対に譲れないポイント(品質)」を教えてください。「ここはシール面だから漏れてはいけない」「ここはただのカバーだから精度はいらない」といった情報があれば、私たちが加工のプロとして、メリハリのある最適な加工方法(抜き方、削り方、仕上げ方)をご提案できます。
◆コストダウンは「買い叩き」ではなく「知恵比べ」
部品コストを下げる方法は、サプライヤーに対して「もっと安くしろ」と値引きを迫ることだけではありません。それは、短期的には下がるかもしれませんが、長期的には品質低下やサプライヤーの疲弊を招き、リスクとなります。
真のコストダウンとは、設計者と加工者が膝を突き合わせ、「機能という目的」に対して「加工という手段」が最適かどうかを検証する、知的な共同作業です。
「この角のRを大きくするだけで、1万円安くなりますよ」
「この公差を0.01mm緩めるだけで、納期が3日短縮できますよ」
そんな「現場の生きた情報」を、私たちは持っています。
高い見積もりに頭を抱える前に、ぜひ一度、その図面を私たちに見せてください。
「機能を守りながら、贅肉を削ぎ落とす」。そんなスマートなモノづくりを、関東精密工業所と一緒に実現しましょう。












