「たかがプラスチック」と侮るなかれ。金属より難しい? 樹脂加工の「反り」「溶け」「透け」を制する、マシニング加工の繊細なる技術
▼ こんな方に読んでほしい
・ 流体解析用の可視化モデル(マニホールド)や、装置の覗き窓など、高い透明度が求められるアクリル・ポリカ部品の調達に苦労している設計者
・ 「樹脂部品の寸法が、納品時と組立時で違う」「穴が小さくなっている」という、吸湿や熱膨張によるトラブルに悩む品質保証担当者
・ 試作は切削で行い、量産は成形(金型)へ移行したいが、切削試作の段階で「成形品と同等の精度・外観」を求めている開発エンジニア
目次
序論:柔らかいから簡単、という大いなる誤解
「鉄やステンレスを削れる設備なら、プラスチックなんて豆腐みたいに簡単に削れるでしょう?」
お客様から、そう言われることがあります。
確かに、硬度だけで言えばその通りです。刃物はサクサク入りますし、機械の負荷もかかりません。
しかし、加工の難易度は「硬さ」だけでは決まりません。
樹脂には、金属にはない厄介な性質があります。
それは、「熱を逃がさない(熱伝導率が低い)」ことと、「弾性変形しやすい(剛性が低い)」ことです。
金属加工と同じ感覚で刃物を回転させると、摩擦熱が逃げ場を失い、ワーク(材料)そのものを溶かしてしまいます。
強く掴めば、お餅のように変形し、加工が終わって外した瞬間に形が変わります。
さらに、アクリルやポリカーボネートのような透明樹脂の場合、切削面が白く濁ってしまい、「中が見えない」という致命的な欠陥になります。
「たかがプラスチック」。その油断が、数万円の材料を一瞬でゴミに変えてしまいます。
本記事では、金属加工のプロフェッショナルが、あえて挑む「樹脂加工」の奥深い世界と、透明度・精度を出すための秘密をご紹介します。
「溶ける」を防ぐ。切れ味と冷却の科学
樹脂加工の最大の敵は「摩擦熱」です。
鉄なら切り屑と一緒に熱が飛んでいきますが、樹脂は熱を抱え込みます。
融点を超えれば、削っているそばからドロドロに溶け出し、刃物に溶着し、むしれやクラック(ひび割れ)を引き起こします。
【プロの対策:樹脂専用の「カミソリ刃」】
私たちは、樹脂を削る際、金属用のエンドミルは使いません。
金属用は刃先の強度が重視されていますが、樹脂用は「鋭さ(切れ味)」が命です。
アルミ用よりもさらに鋭利な、カミソリのような刃がついた専用工具を使用します。
「押し潰す」のではなく「スパッと繊維を断ち切る」。
これにより、摩擦熱の発生を極限まで抑えます。さらに、エアブローや水溶性クーラントを大量にかけ続け、強制的に冷却しながら加工します。
「反る」を防ぐ。アニール処理と優しいチャッキング
樹脂材料(ブロックや板)は、製造過程での残留応力が溜まっています。
これをいきなり削ると、皮を剥いた瞬間に反り返ります。
また、POM(ポリアセタール)やナイロンなどは、吸水性が高く、湿度によって寸法が膨張します。
【プロの対策:アニール(焼き鈍し)】
精度の厳しい部品の場合、私たちは加工前に「アニール処理」を行います。
恒温槽で樹脂を一定温度まで加熱し、ゆっくりと冷ますことで、内部の応力を除去し、結晶化を促進させます。
このひと手間をかけるだけで、加工後の寸法変化が劇的に安定します。
また、チャッキング(固定)においても、金属用の油圧バイスで締め上げたりはしません。
面で吸着するバキュームチャックや、両面テープ固定、あるいは樹脂専用のソフトジョー(生爪)を使い、ワークを変形させない「フェザータッチ」で加工します。
「透ける」を実現する。可視化モデルの鏡面技術
流体解析用のマニホールドや、内部機構が見えるカバー部品。
これらに求められるのは、ガラスのような「完全な透明度」です。
しかし、切削した直後のアクリルやポリカは、白く曇りガラスのようになっています。
【プロの仕上げ:切削から蒸気研磨まで】
(1) 鏡面切削
まず、単結晶ダイヤモンド工具を使い、ナノレベルの面粗度で切削します。この時点で、ある程度向こう側が見えるレベルまで仕上げます。
(2) バフ研磨・手磨き
職人がコンパウンドを使って、切削痕を完全に消し去ります。形状をダレさせないよう、平面度を維持しながら磨くには熟練の技が必要です。
(3) 蒸気研磨(溶剤研磨)
複雑な流路の内部など、手が届かない場所には、特殊な溶剤の蒸気を当てます。表面をごく薄く溶解させることで、一瞬にして透明化させます。
これらの技術を組み合わせることで、内部の流体の動きが手に取るように分かる、高機能な可視化モデルを製作します。
バリとの戦い。金属よりも厄介な「ヒゲ」
樹脂加工の隠れた難所が「バリ取り」です。
金属のバリは根元からポキリと折れますが、樹脂のバリは粘り気があり、伸びてヒゲのようになります。
これを無理に毟り取ろうとすると、製品本体までえぐれてしまいます。
私たちは、マシニングセンタ上での「機上バリ取り」を徹底します。
特殊な面取りカッターやブラシを使い、プログラム制御でバリを除去します。
手作業が必要な場合も、デザインナイフやセラミックカッターを使い、顕微鏡下で精密に除去します。
「樹脂だからカッターで削ればいい」という安易な作業は、製品の品位を落とすため、絶対に行いません。
結論:材質問わず、図面通りの形にするのがプロ
株式会社関東精密は、金属加工の会社ですが、「金属しか削らない」わけではありません。
お客様が作りたいものが樹脂であれば、その特性に合わせて、設備も、工具も、頭の中も切り替えます。
スーパーエンプラ(PEEK、Vespel)のような、金属よりも高価で高精度な樹脂部品。
アクリルブロックから削り出す、美しい透明部品。
パッキン溝の精度が命の、テフロン(PTFE)部品。
「樹脂加工屋に頼んだら、精度が出なかった」
「金属加工屋に頼んだら、断られた」
そんな宙に浮いた図面がありましたら、ぜひ私たちにお預けください。
金属加工で培った「剛性」と「精度」の概念を、柔らかい樹脂の世界にも持ち込み、カチッとした精密部品に仕上げてみせます。












