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医療機器製造を支える「薬機法対象外」の高精度治具設計と加工技術|製造プロセスの黒衣

治具
開発、設計
医療分野
2026.01.13

医療機器産業におけるものづくりは、他の産業と比較して極めて特殊かつ厳格な環境下にあります。人命や健康に直結する製品である以上、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)による厳しい規制は避けて通れません。

しかし、製造現場のエンジニアや生産技術者であれば周知の通り、医療機器の製造ラインを構成するすべての要素が「医療機器」として登録されているわけではありません。

 

特に、製造工程内で使用される「治具(Fixture/Jig)」や「検査具」の多くは、最終製品そのものではないため、薬機法の直接的な承認・認証対象外となるケースが存在します。

しかし、まさにこの「規制の隙間」にある治具こそが、最終製品の品質(QMS)、コスト、そして納期を決定づける最重要ファクターといっても過言ではありません。

 

本記事では、薬機法に抵触しない範囲でありながら、医療機器製造の現場で不可欠とされる「高精度治具」に焦点を当て、

その設計思想、難削材加工、幾何公差の追求、そして横浜・神奈川エリアの製造業を支える技術パートナーとしての在り方について、工学的見地から徹底的に解説します。

 

目次

第1章 医療機器製造における「治具」の法的境界線と重要性

医療機器製造において、もっとも判断に迷うのが「どこまでが薬機法の対象か」という境界線です。一般的に、人体に直接接触する器具や、診断・治療に直接寄与するプログラムや機器は規制対象となります。一方で、それらを製造するための「道具」である治具は、適切な管理下にある製造設備の一部と見なされます。

 

製造補助治具とプロセスバリデーション

医療機器の製造工程では、IQ(据付時適格性確認)、OQ(運転時適格性確認)、PQ(性能適格性確認)といったバリデーションプロセスが求められます。治具は薬機法の直接対象ではありませんが、PQにおいて「常に一定の品質の製品を作り出せること」を証明するためには、治具の精度と剛性が絶対条件となります。
例えば、カテーテルの組み立て工程において、ミクロン単位の位置決めを行う治具が温度変化で変位してしまえば、製品は不適合となります。つまり、治具そのものに許認可は不要でも、治具の品質が最終製品の許認可維持に直結しているのです。ここに、一般的な産業用治具とは一線を画す、極めて高い設計・加工要件が発生します。

 

薬機法対象外となる主な治具カテゴリー

現場で求められる、かつ薬機法手続きの負担なく外部委託(アウトソーシング)が可能な治具には以下のようなものがあります。

1. 工程内搬送治具(パレット・トレイ)
クリーンルーム内での自動搬送や、滅菌工程への投入に使用される治具。耐薬品性や耐熱性が求められますが、製品そのものではないため、比較的設計の自由度が高い領域です。
2. 組立・圧入治具
インプラント部品や手術器具の微細な部品をアッセンブリするための位置決め治具。人の手に触れることなく、正確な角度と力で部品を固定する機能が求められます。
3. 検査・測定用治具(ゲージ)
三次元測定機や画像測定機にワークをセットするための保持具。複雑な自由曲面を持つ生体適合部品を、変形させずに、かつ再現性高く固定する必要があります。
4. 加工用チャッキング治具
マシニングセンタや旋盤で医療部品を加工する際に、既製品のバイスでは掴めない形状を保持するための専用生爪(ソフトジョー)や真空チャック。

 

第2章 医療グレードに求められる材料工学と選定基準

薬機法対象外の治具であっても、使用される環境は「医療機器製造現場」です。したがって、材料選定には一般的なFA装置とは異なる基準が適用されます。特にコンタミネーション(異物混入)のリスク管理は最優先事項です。

 

ステンレス鋼(SUS)の使い分けと表面改質

医療現場の治具でもっとも多用されるのがステンレス鋼です。しかし、単に「SUS304」を選定すればよいというものではありません。

・SUS303: 快削性があり加工コストを抑えられますが、硫黄成分を含むため、腐食感受性が高く、クリーンルーム内での使用や洗浄工程には不向きな場合があります。
・SUS304/316L: 耐食性に優れ、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)などの過酷な環境に耐える治具には必須です。特にSUS316Lは極低炭素であり、粒界腐食への耐性が強いため、薬品洗浄を繰り返す工程に適しています。
表面処理の重要性: ステンレス治具には、不動態化処理(パシペート)や電解研磨を施すことで、表面の微細な凹凸を除去し、菌や汚れの付着を防ぐ設計が求められます。

 

チタン合金と生体適合性の考慮

インプラント製品(人工関節や骨接合プレート)を扱う治具の場合、鉄系材料との接触による「もらい錆」や、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)を避けるため、治具の接触面にチタン合金(Ti-6Al-4Vなど)を使用するケースがあります。チタンは難削材の代表格ですが、製品へのコンタミネーションリスクを極限まで下げるためには避けて通れない選択肢です。

 

エンジニアリングプラスチック(PEEK, POM, ULTEM)

金属によるワークへの傷(打痕)を嫌う工程では、樹脂治具が採用されます。

・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン): 連続使用温度が高く、耐薬品性も抜群です。また、アウトガスが極めて少ないため、真空環境下での使用や、製品への化学的汚染を嫌う工程で重宝されます。加工には高い技術が必要ですが、金属代替としての信頼性は絶大です。
・ジュラコン(POM): 寸法安定性と切削加工性が良く、コストパフォーマンスに優れます。ただし、酸に対する耐性が低いため、洗浄液の選定には注意が必要です。

 

第3章 5軸加工と幾何公差が織りなす「絶対精度」の世界

医療機器部品は、人体の構造に合わせて設計されるため、幾何学的に単純な形状(直方体や円筒)であることは稀です。有機的な自由曲面を持つワークを、いかに正確に固定し、基準を出すか。ここに治具設計・製作の最大の難所があります。

 

自由曲面ワークの「基準」を作るリバースエンジニアリング

図面が存在しない試作品や、手仕上げで微調整されたマスターモデル用の治具を製作する場合、3Dスキャンによるリバースエンジニアリングが威力を発揮します。
ワークの表面データを点群として取り込み、その形状に完全にフィットする「ネスト(受け治具)」をCAD上で設計します。この際、単に形状をコピーするのではなく、加工時の切削抵抗や逃げを考慮した「拘束」と「開放」のバランス設計が重要です。これを実現するには、最新のCAD/CAMシステムだけでなく、設計者の経験値がモノを言います。

 

同時5軸加工機による治具製作のメリット

複雑な形状を持つ治具を3軸加工機で製作しようとすると、段取り替え(積み替え)が複数回発生します。これは累積誤差の原因となり、治具自体の精度低下を招きます。
当社のような同時5軸加工機を導入している環境では、ワンチャッキングでの多面加工が可能です。

・位置度・直角度の向上: 一度の固定で多面を削り出すため、面間の幾何公差(直角度、平行度)が機械精度レベルで保証されます。
・アンダーカットへの対応: 傾斜軸を用いることで、通常の工具では届かない部位や、逆テーパー形状の加工が可能になり、ワークを包み込むような保持形状を実現できます。

 

幾何公差(GD&T)への深い理解

医療用治具の図面において、単なる寸法公差(±0.01mmなど)だけでは不十分なケースが増えています。

・輪郭度(Profile of a surface): 自由曲面を持つ受け治具において、設計値に対する面のズレを規制します。
・位置度(Position): 複数のピンでワークを位置決めする場合、ピン穴の相対的な位置関係が極めて重要です。
設計者の意図(データム系)を正しく読み解き、加工プロセスに落とし込む能力が、治具メーカーには求められます。

 

第4章 【事例紹介】現場の課題を解決した高精度治具製作

ここでは、実際に製造現場で直面した課題と、それを解決するために当社が製作した治具の事例を紹介します。
※守秘義務およびプライバシー保護のため、内容は一部変更しています。

 

事例1:人工関節検査用 3D形状保持治具の製作

・課題:
複雑な曲面を持つチタン製の人工関節コンポーネントを三次元測定機で検査する際、クランプ(固定)の方法によってワークが微小に変形してしまい、測定値が安定しないという問題が発生していました。また、従来の汎用バイスではセットに時間がかかり、全数検査のボトルネックとなっていました。

・解決策:

1. 材料選定: ワークへの傷防止と寸法安定性を考慮し、接触面にPEEK材、ベースにSUS303を採用したハイブリッド構造を提案。
2. 形状設計: ワークの3Dモデルから、保持に必要な最低限の接触エリア(3点支持+補助点)を割り出し、拘束による歪みを発生させない「ソフトタッチ・クランプ機構」を設計。
3. 加工プロセス: PEEK材の受け部分を5軸加工機で削り出し、ワーク形状に対する輪郭度0.02mmを実現。

・結果:
ワークの脱着時間が従来の3分から10秒に短縮。測定の繰り返し精度(再現性)が飛躍的に向上し、工程能力指数(Cpk)の改善に寄与しました。

 

事例2:カテーテル組立用 微細位置決め治具

・課題:
直径1mm以下の極細チューブを溶着する工程において、手作業による位置合わせのバラつきが不良率を高めていました。顕微鏡下での作業となるため、治具自体にも高い視認性と、極めて小さな公差が求められました。

・解決策:

1. 超微細加工: 難削材であるSUS316を使用し、ワイヤーカット放電加工機とマシニングセンタを駆使して、幅0.5mm、深さ0.3mmのV溝を高精度に加工。
2. 表面処理: ハレーション(照明の反射)を防ぐため、治具表面に特殊な梨地処理(マット仕上げ)を施し、作業者の目の負担を軽減。
3. 機構設計: 静電気によるワークの張り付きを防ぐため、アース機能を治具構造に統合。

・結果:
組立不良率が15%から0.5%以下に激減。作業者の熟練度に依存しない工程が確立され、生産計画の安定化につながりました。

 

 

第5章 設計から加工・検査までの一貫体制と品質保証

医療機器メーカーが外部パートナーに求めるのは、単に「図面通りに削る」ことだけではありません。「図面がない」「構想段階である」といった状態からの提案力こそが重要です。

 

図面1枚、ポンチ絵からの設計対応

「こんな風にワークを固定したい」

「この工程のタクトタイムを縮めたい」

と、いった要望があれば、手書きのスケッチや口頭での打ち合わせから、3D CAD(SolidWorks等)を用いた治具設計を行います。
設計段階でCAE解析(強度のシミュレーション)を行うことは稀ですが、豊富な経験則に基づき、切削負荷や熱変位を考慮した「剛性のある設計」を提供します。

 

温度管理された検査室での品質保証

ミクロンオーダーの治具を製作しても、測定環境が整っていなければその精度は証明できません。
当社では、恒温管理された検査室にて、三次元測定機、画像測定機、形状測定機などを駆使し、幾何公差を含む全項目の検査体制を整えています。納品時には詳細な検査成績書を添付し、お客様の受入検査の手間を最小限に抑えます。これは、医療機器業界で求められる「トレーサビリティ」の観点からも不可欠なサービスです。

 

第6章 神奈川・横浜から発信する「日本のものづくり」の底力

医療機器産業の集積地としても知られる神奈川県・横浜市。京浜工業地帯の歴史を受け継ぐこの地には、高度な技術を持つ町工場が数多く存在します。しかし、医療分野特有の「文書管理」「バリデーション支援」「コンタミネーション管理」まで理解して対応できる加工業者は多くありません。

 

都市型工場のメリット:スピードと密な連携

開発スピードが命の医療機器開発において、設計変更は日常茶飯事です。東京都内や神奈川県内のメーカー様であれば、対面での打ち合わせや、試作品の即日持ち込みなど、物理的な距離の近さが大きなアドバンテージとなります。
メールやWeb会議だけでは伝わりにくい「手触り」や「勘所」を共有できること。これこそが、国内、特に近隣の加工業者を選ぶ最大のメリットです。

 

ネットワーク力によるワンストップ対応

治具製作には、切削加工だけでなく、熱処理、表面処理(メッキ、コーティング)、ゴムライニング、刻印など、多岐にわたる工程が必要です。
当社は、横浜・川崎エリアの協力工場と強固なネットワークを築いており、これらの特殊工程も含めた一括受注が可能です。「加工はA社、メッキはB社…」といった発注管理の手間を削減し、完成品として納入します。

 

第7章 選ばれる5つの理由

株式会社関東精密が、医療機器関連企業の皆様からパートナーとして選ばれ続けるには明確な理由があります。

 

1. 難削材・新素材への飽くなき挑戦

インコネル、ハステロイ、チタン合金、セラミックス、そして次世代の樹脂材料。他社が敬遠するような難削材の加工こそ、当社の得意分野です。適切な工具選定と加工条件のデータベース化により、安定した品質を提供します。

 

2. 同時5軸加工機による「工程集約」と「高精度化」

最新鋭の5軸マシニングセンタを駆使し、複雑形状の治具を高精度かつ短納期で製作します。多面加工による段取り回数の削減は、累積誤差の排除に直結します。

 

3. 設計・開発段階からの「VA/VE提案」

「この形状だと加工費が高くなるため、ここは分割構造にしませんか?」「この公差は機能上必須ですか?」といった、製造のプロならではの視点で、コストダウンと機能向上を両立させる提案(VA/VE)を行います。

 

4. 医療業界特有の要求への理解

バリデーション、トレーサビリティ、異物混入対策など、医療機器製造現場特有のルールや言語を理解しています。話が通じる安心感を提供します。

 

5. 柔軟かつ迅速な対応力

試作1個から量産治具まで、数量に関わらず対応します。突発的なライン停止に伴う緊急の治具修正や追加工にも、可能な限り柔軟に対応します。

 

 

第8章 よくあるご質問(Q&A)

医療機器製造現場の皆様から寄せられる、治具製作に関するよくあるご質問をまとめました。

 

Q. 医療機器の製造許可を持っていないのですが、治具の製作依頼は可能ですか?

A. はい、可能です。当社が製作するのはあくまで「治具(設備の一部)」であり、医療機器そのものではないため、製造業許可の有無に関わらずご依頼いただけます。

 

Q. 図面がなく、現物(ワーク)しかないのですが、治具を作れますか?

A. 可能です。ワークをお預かりして採寸、または3Dスキャンを行い、その形状に合わせた治具を設計・製作いたします。

 

Q. クリーンルームで使用するため、油分を完全に除去して納品してほしいのですが。

A. 対応可能です。脱脂洗浄を行い、真空パック等で梱包して納品いたします。また、ご要望に応じて電解研磨等の表面処理も手配可能です。

 

Q. PEEK材やテフロンなどの樹脂加工は可能ですか?

A. はい、得意としております。樹脂特有の熱変形や反りを考慮した、高精度な加工を行います。

 

Q. 治具の材質証明書(ミルシート)は発行できますか?

A. はい、使用した材料のミルシート提出は可能です。トレーサビリティ確保のため、必ず事前にご指示ください。

 

Q. 納期はどのくらいかかりますか?

A. 形状や材質によりますが、通常2週間〜3週間程度です。特急対応が必要な場合はご相談ください。

 

Q. 遠方(関東以外)からの依頼も可能ですか?

A. はい、全国からご依頼をいただいております。Web会議やメール、電話での綿密な打ち合わせにより、距離を感じさせない対応を心がけています。

 

Q. 秘密保持契約(NDA)の締結は可能ですか?

A. もちろんです。開発段階の製品情報を取り扱うケースが多いため、契約締結を前提としたお取引を推奨しております。

 

Q. 既存の治具の追加工や修理はできますか?

A. はい、可能です。他社製治具の改造やメンテナンスも承りますので、まずはご相談ください。

 

Q. 検査成績書のフォーマット指定はできますか?

A. 可能な限り対応いたします。貴社の品質管理基準に合わせた項目での測定・記録を行います。

 

 

第9章 株式会社関東精密が目指す未来

私たちは、単なる「加工屋」ではありません。お客様の製造現場における課題を、技術という力で解決する「ソリューションパートナー」です。
医療技術の進歩は日進月歩であり、それに伴い製造技術にも更なる微細化、高精度化が求められています。私たちは、その要求に応え続けるために、設備投資と人材育成を止めることはありません。

薬機法の規制対象外であっても、その治具が生み出す製品は患者様の命に繋がっています。その重みを深く理解し、ひとつひとつの治具に魂を込めて加工する。

それが株式会社関東精密のプライドです。

 

横浜・神奈川というものづくりの中心地から、日本の、そして世界の医療機器産業を下支えする。そんな気概を持って、皆様からの難題をお待ちしております。

・図面がない構想段階でのご相談も歓迎します。
・難削材の加工限界や、複雑な治具設計でお困りの際は、ぜひ株式会社関東精密へお問い合わせください。技術の力で、貴社の製造現場を革新します。

 

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