「マシニング仕上げ」と「平面研削仕上げ」の分岐点。高精度とコストを両立するVA/VE工法提案
目次
Gマーク(研磨指示)は本当に必要か? 設計者が知っておくべき「仕上げ加工」の賢い使い分けとコストダウンの勘所

◆「研削は高い」という思い込みと、「マシニングだけ」の限界
「図面全体にGマーク(研磨指示)を入れたら、見積もりが跳ね上がってしまった」
「コストを抑えるため『マシニング仕上げ(フライス仕上げ)』で発注したら、案の定、平面度が出ずに組み付けでトラブルになった」
「この部品のこの面に、本当に研削は必要なのだろうか?」
設計者や調達担当者の皆様にとって、「仕上げ加工」の選定は、品質とコストのバランスを決定づける重要な判断です。
高精度なマシニングセンタが普及した現代において、「マシニングだけで完結させたい」というニーズは高まっています。しかし、私たちが前の記事([「マシニング加工だけでは到達できない」治具精度の壁]へのリンクを想定)で解説した通り、ミクロン単位の幾何公差(平面度・平行度)や、[マシニング加工で発生する「歪み」]([「マシニング加工の歪み対策」記事]へのリンクを想定)を根本的に解消するには、「平面研削」という選択肢が不可欠です。
とはいえ、無闇に研削指示を入れることはコストアップに直結します。
では、プロの加工現場は、どこを「マシニング仕上げ」とし、どこから「平面研削仕上げ」と判断するのでしょうか?
本記事では、関東精密が日常的に行っている「VA/VE(価値分析/価値工学)」の視点から、マシニングと平面研削の賢い使い分けと、コストダウンを実現する工法提案の勘所を解説します。
◆マシニング仕上げ vs 平面研削仕上げ 決定的な違い
なぜ、この2つを明確に使い分ける必要があるのでしょうか。それは、加工原理の違いがもたらす「品質(精度)」「表面状態」「コスト」の決定的な違いにあります。
| 比較項目 | マシニング仕上げ(切削) | 平面研削仕上げ(研削) |
| 加工原理 | エンドミル等の刃物で「削り取る」 | 砥石(砥粒)で「削ぎ落とす」 |
| 加工精度 | 寸法公差(±0.01)は得意 | 幾何公差(平面度・平行度 0.005)が得意 |
| 表面粗さ | 比較的粗い(Ra1.6~Ra6.3程度) | 非常に滑らか(Ra0.4~Ra1.6、鏡面も可) |
| 残留応力 | 加工応力(歪み)が残りやすい | 表面の加工変質層を除去し、歪みを取れる |
| 加工対象 | 生材~高硬度材(工具による) | 熱処理後の高硬度材(HRC60等)の仕上げが得意 |
| コスト | 比較的安価 | 比較的高価(手間・時間がかかる) |
マシニング仕上げの「限界」
マシニング仕上げは、切削抵抗や工具のたわみ(びびり)により、ミクロン単位の「うねり」が必ず発生します。また、熱処理後の硬い材料(HRC50以上)を削ることは、工具の摩耗が激しく、現実的ではありません(あるいは、できたとしても高コストです)。
平面研削仕上げの「価値」
平面研削は、熱処理で硬くなった(HRC60など)材料の「歪み」を取り除きながら、マシニングでは不可能なレベルの「平面度」と「表面粗さ」を創り出すことができます。これは、砥石による「スパークアウト(ゼロカット)」という、抵抗がゼロになるまで面を「ならす」加工によって実現されます。
この特性の違いを理解せず、「安価だから」とマシニングだけで仕上げようとすると品質トラブルを招き、「高精度だから」と全てを研削しようとするとオーバースペック(過剰品質)によるコストアップを招くのです。
◆「使い分け」の判断基準
では、設計者は具体的にどう判断すべきか。関東精密がお客様に工法提案する際の「判断基準」を公開します。
・「マシニング仕上げ」で十分なケース
機能的に高い精度を要求しない箇所は、積極的にマシニング仕上げ(Fマーク指示)にすべきです。
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筐体・カバー類:
他の部品と干渉しない外装部品や、内部の保護カバーなど。寸法公差(±0.1mm程度)で十分な場合。
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ブラケット・ベースプレート(非基準面):
部品を「固定するだけ」が役割で、その面が位置決めの基準にならない箇所。
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逃げ(ヌスミ)形状:
相手部品との干渉を避けるための「逃げ」部分。
・「平面研削仕上げ」が不可欠なケース
一方で、以下の機能を持つ「面」には、コストがかかってでもGマーク(研磨指示)を入れるべきであり、その判断こそが製品の品質を保証します。
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① 基準面(データム面):
(最重要) 組立や検査の「ゼロ地点」となる面。この面が歪んでいると、その上で行うすべての加工・測定・組立が狂ってしまいます。(例:検査治具のベースプレート、装置の取り付け基準面)
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② 摺動(しゅうどう)面:
他の部品とスライド接触する面。表面粗さが悪い(マシニング仕上げ)と、摩擦抵抗が大きくなり、早期摩耗の原因となります。滑らかな表面(Ra0.8以下など)が求められます。(例:スライドガイドの当たり面)
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③ シール面(気密・液密):
ガスケットやOリングを挟み、気体や液体の漏れを防ぐ面。わずかな「うねり」(平面度の悪さ)が漏れに直結するため、高い平面度が必要です。
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④ 熱処理後の高硬度材(HRC50以上):
SKD11やSKH51などの金型部品、耐摩耗部品。熱処理(焼入れ)で必ず発生する「歪み」を除去し、要求精度を出すには、研削仕上げが唯一の手段です。
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⑤ ミクロン単位の幾何公差が指定された面:
図面に「平面度 0.005」「平行度 0.01」など、マシニングの限界を超える幾何公差が指示されている場合。
◆ VA/VE提案:「高精度」と「コストダウン」を両立させるプロの工法
関東精密は、単に「図面通りに作る」だけではありません。「図面の要求品質」と「コスト」を両立させるための工法提案(VA/VE)を得意としています。
VA提案:「全部研削」から「必要箇所だけ研削」へ
設計者の方がコストを懸念して精度を妥協しようとしている場合、私たちは逆の提案をすることがあります。
「全面を研削する必要はありません。コストを抑えるため、この“基準面”と“当たり面”の2面だけ、平面研削を入れさせてください」
図面全体を「マシニング仕上げ」にするよりも、機能的に重要な「面」だけをピンポイントで研削する方が、トータルの品質(組立後の精度)は劇的に向上します。この「メリハリ」こそが、真のコストパフォーマンス(=価値)を高める設計です。
VE提案:「研削代(取り代)」の最適化
研削加工には、必ず前工程としてマシニングでの「荒加工(研削代残し)」が必要です。この「研削代(取り代)」の管理が、コストダウン(VE)の鍵を握ります。
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・研削代が多すぎる:
・研削時間が長くなり、コストアップに直結します。
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・研削代が少なすぎる:
マシニングで生じた加工歪みや、熱処理の歪みを除去しきれず、研削しても精度が出ない(=不良品)リスクが高まります。
私たちは、材料特性([マシニングの歪み記事]で解説した残留応力など)や熱処理の変形量を見越し、マシニング段階で「0.1mm~0.3mm」といった「必要最小限かつ安全な研削代」を設定します。これにより、後工程(研削)の工数を最小限に抑え、コストダウンと高精度を両立させます。
VE提案:「研削」を「高精度マシニング」に置き換える
場合によっては、「研削」をあえて「使わない」提案も行います。
例えば、要求精度が「平面度 0.015mm」(研削には及ばないが、通常のマシニングでは厳しい)といった絶妙なラインの場合。
私たちは、[マシニングの歪み対策](記事2)で解説した「工程内アニール(歪み取り)」や、クランプ方法(段取り)を工夫した「高精度マシニング」を駆使し、「研削レス(研削なし)」で要求精度を達成する工法を提案することがあります。
これは、研削盤への「載せ替え工数」を削減し、リードタイム短縮と大幅なコストダウンに繋がります。
◆「このGマーク、本当に必要ですか?」とご相談ください
「マシニング仕上げ」と「平面研削仕上げ」は、どちらが優れているか、という話ではありません。コスト、精度、機能、リードタイムといった複数の要求の中で、最適な「解」を導き出すための「手段」です。
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「この図面のGマーク、オーバースペック(過剰品質)ではないだろうか?」
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「マシニング仕上げでコストダウンしたいが、精度トラブルが怖い」
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「熱処理後の歪みと研削代のバランスについて、加工屋の意見が聞きたい」
もし、そのような「仕上げ加工の選定」に関するお悩みがあれば、ぜひ一度、関東精密にご相談ください。
私たちは、マシニングと平面研削の「両方を知り尽くしている」からこそできる、お客様の製品価値を最大化するVA/VE工法をご提案します。図面一枚から、コストと品質の両立を実現するお手伝いをいたします。












