BLOG
ブログ
  • TOP
  • 切削加工ブログ
  • なぜ、この部品は熱処理で仕上がらないのか? “加工品”の形状と公差から逆算する、熱処理の難易度とコストの壁

なぜ、この部品は熱処理で仕上がらないのか? “加工品”の形状と公差から逆算する、熱処理の難易度とコストの壁

治具
開発、設計
5軸マシニング加工
2025.11.03

「図面通りの硬度が出ても、歪んで使えない」を防ぐ。加工と熱処理の連携ノウハウ

・「試作では上手くいったのに、量産に入ったら歪み(ひずみ)が抑えられない」
・「図面通りの硬度は出ている。しかし、肝心の寸法公差(幾何公差)が全く入らない」
・「熱処理業者に図面を見せたら、『この形状では精度の保証ができない』と断られてしまった」

BtoBの部品製造において、【加工品(製品)】に【熱処理(焼き入れ)】は欠かせません。耐摩耗性、強度、靭性(ねばり強さ)といった機械的性質を飛躍的に向上させ、製品の寿命と信頼性を決定づける重要な工程です。

しかし、この熱処理が最大の「壁」として立ちはだかります。

 

特に、以下のようなご経験はありませんか?

・薄肉のフランジ形状部品が、熱処理でポテトチップスのように反ってしまった。
・長尺のシャフト(軸)が、焼き入れで弓なりに変形してしまった。
・肉厚が不均一な部品(厚いボスと薄い板が混在)で、冷却ムラから割れ(クラック)が発生した。
・S45Cで高周波焼き入れを指示したが、硬化層が浅く、すぐに摩耗してしまった。

 

前回の記事では「熱処理を前提とした【治具】【設計】」について解説しましたが、治具が「安定性・剛性」を重視して設計されるのに対し、

「加工品(製品)」は、機能やデザイン、軽量化のために、熱処理にとって非常に過酷な形状(薄肉、非対称、複雑形状)を要求されるケースが多々あります。

硬度(HRC)を出すことと、寸法精度を出すことは、時として相反します。
本記事では、「加工品」の熱処理に特化し、なぜそれが難しいのか、そしてその困難をどう乗り越えて高精度な部品を安定供給するか、そのための「加工技術」と「設計思想」の勘所を徹底解説します。

 

 

◆ なぜ「加工品」の熱処理はこんなにも難しいのか?

「熱処理=鋼材を加熱して冷やす」というシンプルな原理とは裏腹に、加工品の熱処理は「形状」と「サイズ」という変数によって、難易度が指数関数的に跳ね上がります。その主な要因は「熱」と「応力」のアンバランスです。

 

難易度を上げる要因①:肉厚の不均一(冷却速度の差)

熱処理失敗の最大の原因がこれです。
部品を加熱・冷却する際、「薄い部分」は速く冷え、「厚い部分」はゆっくり冷えます。

この「冷却速度の差」が、部品内部に強烈な「熱応力」を発生させます。
例えば、厚いボス部に薄いリブが立っているような部品では、リブが先に収縮しようとするのに対し、ボス部はまだ高温で膨張しています。この内部での引っ張り合いが、結果として「歪み」や「反り」、最悪の場合は「割れ」を引き起こします。

 

難易度を上げる要因②:形状の非対称性(変形の予測困難)

治具のようにシンメトリー(対称)なブロック形状であれば、変形は比較的均一に起こります。しかし、加工品の多くはL字型、U字型、片側にだけ穴や溝があるような「非対称」な形状をしています。

・U字型の部品 → 焼き入れで口が広がるか、狭まる。
・片側にキー溝があるシャフト → 溝がある側とない側での内部応力のバランスが崩れ、弓なりに曲がる。

こうした非対称な形状は、変形の方向や量を予測・制御することを極めて困難にします。

 

難易度を上げる要因③:鋭角なコーナーと近接する穴(応力集中)

設計上、どうしても鋭角な内角(隅Rゼロ)や、穴と穴が近接するようなデザインが必要になることがあります。

これらの箇所は、物理的な「応力集中部」となります。焼き入れによる急冷時、組織変態(マルテンサイト化)による膨張と、冷却による収縮の応力がこの一点に集中します。材料がその応力に耐えられなくなった瞬間、そこを起点として「焼き割れ(クラック)」が発生します。

 

難易度を上げる要因④:厳しい幾何公差(平面度・直角度・位置度)

硬度(HRC)を出すだけなら、そこまで難しくありません。本当に難しいのは、「HRC60°を達成しつつ、平面度0.01mm、穴の位置度±0.01mmを維持する」といった要求です。

熱処理では、鋼材は必ず変形します。体積も膨張します。「変形ゼロ」はあり得ません。
問題は、この変形が「均一」ではないことです。前述の要因①~③により、部品は三次元的に複雑にねじれ、反り、膨らみます。

熱処理後の「歪んだ状態」から、平面度や直角度といった幾何公差を満足させる「後加工(研削・放電加工)」こそが、加工業者の腕の見せ所であり、最もコストがかかる部分なのです。

 

 

◆ 「熱処理で歪む」を制御する、加工技術からのアプローチ

では、これらの困難な加工品を、どうやって図面通りの精度に仕上げるのか。
関東精密のような専門業者が実践している、「熱」と「応力」をコントロールするための加工プロセスを紹介します。

 

アプローチ①:「前加工」での徹底した応力除去

熱処理の成否は、熱処理に入れる「前」の状態で決まります。

・「荒加工」→「応力除去焼なまし」→「中仕上げ」のプロセス
旋盤加工や切削加工で荒く削った(荒加工)部品には、加工によって引き起こされた「残留応力」が溜まっています。

この応力が残ったまま焼き入れを行うと、熱処理の応力と合わさって、予測不能な大きな変形を引き起こします。

 

特に高精度が求められる部品では、「荒加工」→「応力除去焼なまし(アニール)」で一度応力をリセット→「中仕上げ」という工程を踏みます。この一手間が、焼き入れ後の歪みを最小限に抑え、後加工の工数を劇的に削減します。

・均一な「仕上げ代(研削代)」の確保
熱処理後の歪みを見越して、最終仕上げ(研削)のための「削り代」を残します。この仕上げ代が不均一(例:ある面は0.1mm、ある面は0.5mm)だと、熱処理時の加熱・冷却ムラや、後加工での研削工数増大に直結します。
変形を予測し、「必要最小限かつ均一な仕上げ代」を残すことが、高品質とコストダウンを両立する鍵です。

 

アプローチ②:「熱処理中」の変形抑制ノウハウ

部品をただ炉に入れるだけではありません。どう加熱し、どう冷やすか、その「プロセス」にも技術が詰まっています。

・「焼き入れ治具」の活用
長尺のシャフトが曲がるのを防ぐため、あるいは薄板が反るのを防ぐために、熱処理専用の「焼き入れ治具」(耐熱鋼などで製作)に部品を拘束・固定した状態で熱処理を行うことがあります。
部品の変形を物理的に押さえ込むこの手法は、ノウハウの塊です。(※関東精密では、こうした熱処理用の治具そのものの設計製作も得意としています)

・冷却方法の最適化(ガス冷却、油冷、マルテンパ)
例えば、SKD11のような「空冷鋼(空気やガスで冷やしても硬度が出る鋼材)」は、油冷や水冷に比べて歪みリスクが格段に低いです。
SKS3などの「油冷鋼」でも、冷却速度をコントロールする「マルテンパ」といった特殊な熱処理法を選択することで、硬度を確保しつつ歪みを最小限に抑えるアプローチが可能です。

 

アプローチ③:「後加工」での高精度リカバリー技術

熱処理で変形した「硬い(HRC60°)部品」を、どうやって図面通りの精度に戻すか。ここが最終的な品質を決める勝負どころです。

・歪んだワークの「チャッキング(掴み)」技術
熱処理で反ってしまった薄板を、平面研削盤で平らに削るとします。しかし、反った板をそのままマグネットチャックで吸着させると、反りが強制的に矯正された状態で研削され、チャックを外した瞬間にまた元の反った形に戻ってしまいます。

 

「いかに歪んだワークの応力を抜いた状態でチャッキングし、基準面を出すか」

 

これは、言葉で書くのは簡単ですが、熟練の技術(例:隙間にシムを挟む、吸着力を調整する)が必要な、高精度研削加工の核心的なノウハウです。

※研削加工と放電加工の複合
熱処理で硬化した部品は、切削工具では加工できません。仕上げは「研削」か「放電」です。
・平面や円筒 → 研削加工
・複雑な内形状や、研削砥石の入らないミクロン単位のコーナー → ワイヤーカット放電加工
熱処理後の変形を修正し、最終的な幾何公差を保証するには、これらの高精度加工機をいかに使いこなし、工程を組むかが鍵となります。

 

 

◆ 設計者・開発担当者へ。「熱処理で失敗しない」ための設計アドバイス

加工業者だけの努力では限界があります。設計段階での「小さな配慮」が、熱処理の成功率を劇的に変えます。

 

アドバイス①:「鋭角な内角」を避ける

・「焼き割れ(クラック)」の最大の原因は、鋭角な内角(ピンカド)です。応力が集中し、そこから亀裂が入ります。

・対策: 設計上問題がない限り、必ず「R(アール)」を設けてください。R0.2でもR0.5でもあるだけで、応力集中は劇的に緩和されます。どうしてもRが許容できない場合は、その部分だけ「放電加工」で仕上げるなど、加工工程側での対策が必要になります。

 

アドバイス②:可能な限り「肉厚を均一」にする

「歪み」の最大の原因は、肉厚の不均一です。

・対策: 機能に影響しない部分であれば、厚い部分を「肉盗み」する、薄い部分に「リブを立てて補強する」(ただしリブ自体が歪みの原因にもなるため注意)など、できるだけ部品全体の肉厚を均一化する設計が理想です。それが難しい場合は、「この部品は歪む」ことを前提とし、後加工(研削)で修正できる形状にしておく必要があります。

 

アドバイス③:材質選定の再考(S45Cで本当に良いか?)

コストや汎用性から【S45C】が選ばれることは多いですが、S45Cは熱処理の難易度が非常に高い材料です。

・S45Cの難しさ: 水で急冷する(水焼き入れ)が基本のため、歪み・割れリスクが最大です。また、「焼き入れ性」が低く、表面は硬くなっても中心部まで硬度が入らない(焼きが浅い)ため、中実の部品では期待した強度や耐摩耗性が得られないことがあります。
※代替案:
・歪みを最小限にしたい場合:【SKD11】を選定する。空冷(またはガス冷却)で歪みが非常に少なく、高精度な熱処理に最適です。
・強度と靭性のバランス:【SKS3】や【SCM435】など、油冷でS45Cより深く安定して焼きが入る合金鋼を選定する。

 

 

◆その「加工品」、熱処理の難易度まで考慮できていますか?

 

「この形状は機能的に必須だ」
「この公差でないと、製品の性能が保証できない」
「試作はクリアしたが、量産での歩留まりが最悪でコストが合わない」

 

関東精密は、こうした「加工品」の熱処理に関する高度な課題を、日常的に解決しています。

私たちは、図面通りに「削る」だけの加工屋ではありません。
その部品がどのような熱処理をされ、どのように変形し、それをどうやって最終公差内に収めるか。

・「荒加工」→「応力除去」→「熱処理(焼き入れ・サブゼロ)」→「高精度研削・放電加工」

 

この一連のプロセスすべてを最適化し、管理・実行できるのが、私たちの最大の強みです。

 

熱処理で歪んで使えなかった「問題児」の部品図面。
あるいは、これから設計する複雑形状の部品。

 

「この形状、熱処理は本当に可能か?」
「どの材質と熱処理の組み合わせが、コストと精度の最適解か?」

 

そう感じたら、ぜひ一度、私たち株式会社関東精密にご相談ください。
加工と熱処理の両方を知り尽くしたプロフェッショナルの視点から、安定量産を実現するソリューションをご提案します。

 

 

    • 1.入力
    • 2.確認
    • 3.完了
    • 1.入力
    • 2.確認
    • 3.完了
    必須お問合せ項目
    必須応募職種
    任意会社名 必須住所 必須名前 必須メールアドレス 必須電話番号※ハイフン不要 任意添付ファイル

    ※一度に送信できる画像ファイルの容量上限は5MBです。
    ※添付可能なファイル形式は、.jpg、.png、.jpeg、.gif、.xlsx、.docx、.xls、.doc、.ppt、.tif、.tiff、.pdfです。

    任意お問い合わせ内容

    個人情報の取り扱いについては
    プライバシーポリシー」ををお読みいただき、
    同意のうえ「確認画面へ」を押してください。