治具設計の常識が変わる!【5軸マシニング】がもたらす段取り時間の大幅短縮術
製造現場において、生産性を左右する隠れた重要工程、それが「段取り」です。特に、複雑な形状の部品を加工する際、専用治具の設計・製作に多大な時間とコストを費やしているケースは少なくありません。「もっと段取り時間を短縮できないか」「治具のコストを削減したい」こうした現場の切実な声に応えるのが、【5軸マシニング】の活用です。本記事では、【5軸マシニング】がいかにして治具設計の常識を覆し、段取り時間を劇的に短縮するのか、そのメカニズムと具体的な方法を解説します。
従来の【切削加工】における治具の課題
3軸マシニングセンタを用いた従来の【切削加工】では、加工する面を変えるたびにワーク(加工対象物)を掴み直す必要がありました。例えば、サイコロのような6面体の全ての面を加工する場合、最低でも2回以上の段取り替えが発生します。その際、ワークを正確に位置決めし、強固に固定するために、以下のような課題がありました。
専用治具の必要性: 複雑な形状のワークを固定するため、製品ごとに専用の治具を設計・製作する必要がある。
コストとリードタイムの増大: 治具の設計・製作には、数日から数週間の時間と、数万から数百万円のコストがかかる。
治具の保管スペース: 製品の種類が増えるほど、治具の保管・管理スペースが圧迫される。
段取り替えの人的工数: 段取り替え作業そのものに時間がかかり、生産ラインの停止時間を長くする。
これらの課題は、多品種少量生産が主流の現代において、企業の競争力を削ぐ大きな要因となっています。
【5軸マシニング】が治具をシンプルにする理由
【5軸マシニング】は、テーブルまたは主軸が回転・傾斜することで、一度のセッティング(ワンチャック)で5面加工(天面+4側面)を可能にします。これにより、治具のあり方が根本から変わります。
1. ワークへのアクセス性向上による治具の簡素化
・5軸加工では、工具が様々な角度からワークにアプローチできるため、クランプ(固定具)や治具との干渉を容易に回避できます。これにより、ワークを大きく覆うような複雑な専用治具は不要になり、バイスやクランプでシンプルに固定するだけで済むケースが大幅に増えます。加工しない底面さえ掴めれば、残りの5面は自由に加工できるためです。
2. 捨て加工・捨て代の活用
・治具の代わりに、素材自体に掴みしろ(捨てしろ)を設け、加工完了後に切り離すという手法も有効です。例えば、素材の塊から製品形状を削り出し、最後に土台部分を切り離すことで、治具レスでの全加工を実現します。これは、工程を集約できる【5軸マシニング】ならではの効率的なアプローチです。
3. 段取り時間の大幅な短縮効果
治具がシンプルになることで、以下のような効果が生まれます。
・治具設計・製作のリードタイムとコストがゼロに近づく。
・段取り替えの時間が数時間から数十分に短縮される。
・段取り替えに起因する位置決め誤差がなくなり、加工精度が向上する。
・治具の保管・管理が不要になる。
ある試算では、3軸加工で3つの治具を使い、合計3時間の段取り時間が必要だった部品が、【5軸マシニング】を導入したことで治具1つ、段取り時間30分に短縮されたという事例もあります。
まとめ:次の行動へ
「段取りはコスト」という意識改革が、これからの製造業には不可欠です。もし貴社の工場で、治具の製作や段取り替えに多くの時間を費やしているなら、それは大きな改善のチャンスです。まずは、現在加工している部品の中で、最も段取りが複雑なものを一つ選んでみてください。そして、その部品を【5軸マシニング】で加工した場合、どのように治具がシンプルになり、どれだけ時間を短縮できるかをシミュレーションしてみましょう。信頼できるパートナーに相談すれば、目から鱗が落ちるような改善提案が得られるかもしれません。段取りの革新が、工場全体の生産性を飛躍させる第一歩となります。