その設計、図面にする前に止めませんか?——構想段階の「壁」を突破する、町工場の新しい使い方
目次
【設計者向け】
「完璧な図面を描いたはずが、加工先から『この形状は無理』と断られた」
「試作品はできたが、コストが見合わず量産化の壁にぶつかった」
「複数の加工工程が必要で、最適なサプライヤー選定に手間取っている」
製品開発の最前線に立つ設計者や開発責任者の方々にとって、これらは決して他人事ではない「あるある」な悩みではないでしょうか。特に、専門性が高まるほど、構想段階の漠然とした不安や判断の迷いは、プロジェクトの成否を分ける重要な課題となります。
この記事では、『図面化される前のアイデア段階』から町工場と連携することの重要性と、それが設計者にもたらす具体的なメリットを、加工のプロフェッショナル視点から解説します。
なぜ、構想段階の相談が重要なのか?設計と調達に潜む「落とし穴」
設計が完了してから加工先を探す、という一般的なフローには、実は多くのリスクが潜んでいます。
【設計上のリスク】:
設計者の意図した性能・機能を追求するあまり、特定の加工法では実現不可能な形状や、過剰な精度要求を盛り込んでしまうケースです。結果として、手戻りや大幅な設計変更を余儀なくされ、開発スケジュールに深刻な影響を及ぼします。
【調達上のリスク】:
完成した図面をもとに相見積もりを取ると、調達部門は多くの場合、最も安価な業者を選定します。しかし、その業者が必ずしも『放電加工・マシニング・研削』といった複数の工法を最適に組み合わせるノウハウを持っているとは限りません。結果、「安かろう悪かろう」の品質となり、後工程で問題が発覚することも少なくありません。
【コストのリスク】:
加工方法を限定するような設計は、知らず知らずのうちにコストを押し上げます。例えば、「この溝は放電加工でしか無理だろう」と設計段階で決めつけてしまうと、より安価で高速なマシニング加工の可能性を潰してしまうかもしれません。
これらのリスクは、プロジェクトの遅延や品質低下、予算超過に直結します。この「負の連鎖」を断ち切る鍵こそが、構想段階でのプロフェッショナルな視点の介入なのです。
設計者の「困りごと」を解決する、町工場の実践的アプローチ
私たちは、単に図面通りに加工するだけの存在ではありません。設計者の「技術的な悩み・構想段階の不安・判断の迷い」に寄り添い、最適な解を導き出すパートナーです。ここでは、具体的な課題に対する私たちのアプローチをご紹介します。
複数工法をまたぐ部品の「最適工法」選定
【課題】:
硬質材(例:SKD11, タングステン)に精密な溝や異形状の穴を加工したい。放電加工とマシニング、どちらが最適か判断に迷う。
『考え方』:私たちは、まず「最終的に何を実現したいか」という目的から逆算します。
1. 要求精度の確認:
まず、『その部品に求められる公差はいくつか?』『±0.01mm以下の精度が求められるのか?』、それとも『JIS B 0401の中級(m級)で十分なのか』を確認します。
2.形状と材質の評価:
コーナーRの指定、アスペクト比(深さと幅の関係)、そして材質の硬度や粘りを評価します。「放電×硬質材」は得意領域ですが、もしマシニングで対応可能なら、加工時間とコストを大幅に削減できる提案を行います。
3. コストと納期のバランス:
最終的に、要求品質を満たす複数の選択肢の中から、お客様の予算と希望納期に最も合致する方法を提示します。
アルミ削り出しにおける軽量化と放熱設計
【課題】:A7075を使い、軽量化と放熱性を両立した筐体を設計したい。しかし、薄肉にしすぎて加工中に歪みが発生してしまった。
【成功への分かれ道】:
『失敗例』:
強度計算のみで肉抜きを行い、加工時の応力解放や切削熱による変形を考慮していなかった。結果、平面度が出ずに組み付けで問題が発生。
【成功へのアプローチ】:
私たちは、材質の特性を考慮した加工法を提案します。例えば、荒加工後に一度ワークを解放して歪みを取り、再度クランプして仕上げる「歪み取り工程」を挟んだり、リブの立て方や配置を工夫して剛性を確保する形状を逆提案したりします。これにより、設計要求を満たしつつ、加工性を担保した「勝てる設計」が実現します。
位置決め精度±0.005mmを保証する高精度治具
【課題】:複雑な形状のワークを、量産前に繰り返し同じ精度で評価したい。安定した測定・検査を行うための位置決め治具が必要。
【品質を担保する考え方】:高精度治具の目的は、「誰が使っても測定結果がブレないこと」です。私たちは、『位置決め精度±0.005mm』を実現するために、以下の点を重視します。
1. 基準(DATUM)の明確化: ワークのどの面を基準にして位置決めするのか、設計者と徹底的にすり合わせます。
2. 再現性の追求:ワークの着脱を繰り返しても摩耗しにくい材質(例:窒化処理したSUS304)を選定し、クランプ方法もワークにダメージを与えず、かつ確実に固定できる方式を設計します。
3. 過去のリカバリー事例:以前、お客様が自社で設計した治具で製品評価が安定しない、という相談がありました。原因を調査したところ、クランプ時のわずかな力でワークがたわんでいることが判明。私たちは治具の支持構造を根本から見直し、基準点の取り方を変更することで、安定した評価環境を再構築しました。
設計者の方へ:もう一歩踏み込んだプロからの視点
長年、多種多様な図面と向き合ってきた私たちだからこそ提供できる、コストと品質に直結するアドバイスがあります。
【「逃げ」と「R」を味方につける】: 直角の指定が必要な箇所以外に、工具が進入するための「逃げ形状」や、強度向上と加工負荷低減に繋がる「コーナーR」を設けるだけで、加工コストは劇的に下がります。図面の隅に「特に指示なき角部はC0.2 / R0.2」と一文加えるだけでも効果的です。
【公差のメリハリを意識する】:すべての箇所に厳しい公差を設定していませんか?本当にその精度が必要なのはどこかを明確にし、それ以外の公差を緩和する「公差の最適化」は、品質を維持しながらコストダウンを実現する最も有効な手段の一つです。
【材質選定、その先へ】:材料のカタログスペックだけでなく、「その材料が市場で安定して手に入るか(調達性)」「加工後にどの程度歪む可能性があるか(残留応力)」といった視点も重要です。思いもよらない材質が、課題解決の鍵になることもあります。
次にすべきこと:構想段階の「壁打ち相手」を見つける
もし、あなたが今、まさに設計段階で頭を悩ませているのなら。
もし、頭の中にあるアイデアをどう形にすれば良いか、判断に迷っているのなら。
一度、『そのアイデアがまだ図面という形になっていない段階で、私たちのような町工場に相談する』という選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。
私たちは、単なる「加工屋」ではありません。設計者の最も身近な「技術パートナー」として、構想段階の漠然としたイメージを、実現可能な形へと具体化するお手伝いができます。その設計、図面にする前に、ぜひ一度お声がけください。きっと、新しい道が開けるはずです。