「ワイヤーカット加工で“変形・歪み”を防ぐには?設計段階から考える精度維持のポイント」
ワイヤーカット加工でも“変形”は起こり得る?
ワイヤーカット加工は、「力がかからない加工=変形しにくい」とよく言われます。
実際に刃物を使わず、放電で金属を溶かして切断するため、『応力や熱による変形が起こりにくいのは事実』です。
しかし、設計や工程の組み方を間違えると、『ワイヤーカットでも「反り」や「歪み」が発生するリスク』があります。
本記事では、ワイヤーカット加工で変形を抑えるために『設計段階で意識すべきポイントと、現場でよくある失敗例』をご紹介します。
そもそも、なぜ変形・歪みが起きるのか?
変形の主な原因は以下の3つです。
1.内部応力の偏り
・素材内部には、製造工程(圧延・鍛造など)で生まれた“目に見えない力”が残っています。
ワイヤーカットでその力のバランスが崩れると、『「ピンッ」と反ったり、「クネッ」と歪むことがある』のです。
2. 残材の落下
・コア部分(ワイヤーで切り出される側の部材)が『加工途中で落下したり、引っ張られたり』すると、切断面がズレてしまいます。
3.設計ミス・工程順序の不備
・最後のワイヤーカットで“抜き加工”だけ行うつもりが、【クランプ位置が悪くて変形した…】という事例も多々あります。
目次
設計段階でできる“5つの対策ポイント
① ワイヤーカット前提での図面構成にする
・最初から「どこからワイヤーを通すか」「スタート位置はどこか」を想定しておくことで、不必要な応力集中や切り直しリスクを防げます。
② スリットやコーナー部を無理にRゼロにしない
・実際には「ワイヤーの線径がある(例:φ0.2mm)ため、内角はRゼロにはなりません。
・設計で無理な鋭角を避けると、余計な応力集中や誤差の原因を回避できます。
③ 厚み・形状によっては“応力抜き加工”を先に行う
・焼入れ前や前加工段階で【応力除去の「予備スリット」】を入れておくと、最終加工時の変形が抑えられます。
④ コア抜けに対する“支持設計”を忘れない
・加工中にコアが落ちてしまうと、寸法精度にも傷にも大きな影響が出ます。
【スリットの途中に小さな「つなぎ」】設けて、最後に手動で切り離すのが効果的です。
⑤ 加工順序を業者とすり合わせる
・「最後にワイヤーカットで締める」つもりでも、素材・サイズ・保持方法によって順序が逆の方が良いケースもあります。
これは、現場のノウハウがものを言う部分。【加工業者と初期段階から相談するのが理想】です。
実際にあった失敗事例(要約)
・ある試作部品の加工で、設計者が“コア落ち”を想定せず、切断後に中心部が落下→歪みが発生。
後工程での手直しでは精度が出ず、結局もう一度最初から加工し直す羽目に。
➡ このような“やり直し”はコストも納期も圧迫します。
加工現場からのワンポイントアドバイス
・「とにかく設計図の通りにやってくれればいい」という発注は危険です。
加工に適した図面と、実際の機械・素材特性との“折り合い”をつけることで、『ムリ・ムダ・ミス』が減ります。
・「こんな形状、どう加工するのがベスト?」という相談を歓迎してくれる業者を選ぶことが、実は成功の秘訣かもしれません。
まとめ:加工精度は“設計”で決まることもある
ワイヤーカットは精密で変形しにくい加工法ですが、万能ではありません。
図面設計段階で下記を意識することで、加工の仕上がりは大きく変わります。
・ワイヤー通過の設計
・応力を考慮したスリット設計
・コア落下を防ぐ工夫
・加工順序の最適化
「精度が出ない…」「変形した…」と後から嘆く前に、【設計と加工の橋渡し】をしてくれるパートナーと相談することをおすすめします。