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リバースエンジニアリングと知的財産権:部品復元時の法的注意点

リバースエンジニアリング
2025.07.14

 リバースエンジニアリングは、廃番部品の復元や既存製品の解析に非常に有効な技術ですが、その実施にあたっては「知的財産権」への配慮が不可欠です。他者の権利を侵害することなく、適法かつ倫理的にリバースエンジニアリングを活用するために、知っておくべき法的な注意点を解説します。

 

【関連する主な知的財産権】
リバースエンジニアリングに関連する可能性のある主な知的財産権には、以下のようなものがあります。

 

1. 特許権:
・発明(技術的思想の創作)を保護する権利。製品の構造、機能、製造方法などが特許で保護されている場合があります。
・注意点: リバースエンジニアリングによって明らかになった技術が他者の特許発明である場合、その技術を無断で使用して製品を製造・販売すると特許権侵害となる可能性があります。「業として」の実施が侵害行為とみなされます。

 

2. 意匠権:
・製品の美的外観(デザイン)を保護する権利。部品の形状や模様、色彩などが意匠登録されている場合があります。
・注意点: リバースエンジニアリングで復元した部品のデザインが、他者の登録意匠と同一または類似であり、それを製造・販売すると意匠権侵害となる可能性があります。

 

3. 著作権:
・主にソフトウェアのプログラムコードやデータベース、製品マニュアル、設計図面などが著作物として保護されることがあります。
・注意点: ハードウェア部品そのものが著作権の対象となることは稀ですが、組み込まれているソフトウェアを解析・複製したり、設計図面を無断でコピーしたりする行為は著作権侵害にあたる可能性があります。

 

4. 不正競争防止法(営業秘密、限定提供データなど):
・企業の秘密情報(設計ノウハウ、製造方法、顧客リストなど)や、特定の条件下で提供されるデータを不正に取得・使用・開示する行為を規制します。
・注意点: 不正な手段(例:元従業員による設計データの持ち出し、ハッキングなど)で入手した情報に基づいてリバースエンジニアリングを行うことは、不正競争行為として問題となる可能性があります。

 

【リバースエンジニアリング実施の適法性】
一般的に、合法的に入手した製品を分解・解析するリバースエンジニアリング行為そのものが、直ちに違法となるわけではありません。製品の仕組みを理解するための調査や研究目的であれば、多くの場合、問題ないとされています。
しかし、以下の点には十分な注意が必要です。

• 「解析目的」と「模倣・デッドコピー目的」の境界: 解析して得られた情報を基に、他者の知的財産権を侵害するような形で製品を製造・販売することは違法となる可能性が高いです。特に、単なる模倣品(デッドコピー)の製造はリスクが高いと言えます。
• 契約による制限: ソフトウェアのライセンス契約や、製品の購入契約において、リバースエンジニアリングを禁止する条項が設けられている場合があります。これらの契約条項に違反すると、契約不履行となる可能性があります。
• 自社製品の復元や修理目的の場合: 自社で過去に製造した製品の図面が紛失した場合や、顧客への修理サービス提供のために廃番部品を復元するといったケースでは、通常、知的財産権の問題は生じにくいと考えられます。ただし、その部品に他社からライセンスを受けていた技術が含まれている場合は、契約内容を確認する必要があります。

 

法的リスクを避けるために
1. 目的の明確化: リバースエンジニアリングを行う目的を明確にし、それが他者の権利を侵害するものでないかを確認します。
2. 権利調査: 対象となる製品や技術に関連する特許や意匠権などが存在しないか、事前に調査することが望ましいです。
3. 専門家への相談: 法的な判断に迷う場合は、弁理士や弁護士といった知的財産権の専門家に相談し、アドバイスを受けることが最も安全です。
4. 独自技術の付加: 単なる模倣に留まらず、解析結果を基に自社の独自技術や改良を加えることで、新たな価値を創造し、権利侵害のリスクを低減できる場合があります。

 

リバースエンジニアリングは強力なツールですが、その利用は常に法と倫理の範囲内で行われるべきです。適切な知識と慎重な判断をもって活用することが求められます。